「よし、行こう！」ラーンの豪快な声と足音が、石畳の上をこだました。イシェは小さくため息をつき、彼の後を続けた。ビレーの朝焼けが空を染め始めた頃、彼らはいつも通りの遺跡へ向かっていた。
「今日は何か掘り出せそうだぞ！大穴が見つかる予感がする！」ラーンの目は輝いていた。イシェはそんな彼の熱意に苦笑した。「また、大穴の話か…」と呟きながら、懐から地図を取り出した。テルヘルからの指示を元に、今回は特に危険な区域への潜入だった。
遺跡の入り口は、崩れかけた石畳と朽ち果てた門で塞がれていた。ラーンが先頭を切って、剣を構えながら慎重に進んでいく。イシェは彼の後ろを少し離れて歩み、周囲を警戒していた。静寂の中に、時折聞こえる風の音だけが不気味さを増していた。
深い闇の世界へと続く階段を降りるにつれ、空気は重くなり、湿り気が漂い始めた。壁には苔が生え、天井からは水が滴り落ちていた。ラーンが懐中電灯を点けると、ぼんやりと壁画が見えた。それは、かつてこの遺跡に住んでいた人々の生活を描いたものだった。
「見てみろ！こんなところにこんな絵があるなんて…」ラーンの声は興奮気味だった。イシェも興味深そうに壁画を眺めた。しかし、その瞬間、床が崩れ始めた。ラーンは咄嗟にイシェを掴んで後ろに跳ね返った。
崩落した床の下には、深い闇が広がっていた。イシェは恐怖で息をのんだ。ラーンの顔も険しく、緊張が走っていた。「これは…罠だ！」
その時、突然、闇の中から赤い光が差し込んだ。それはテルヘルが持ってきた特殊なランプの光だった。彼女は冷静な表情で、二人に合図を送った。その瞬間、闇の中から何者かが飛び出してきた。
鋭い爪と牙を持つ獣のような姿は、一瞬でラーンに向かって襲いかかった。ラーンの剣が光り、獣の攻撃をかわした。激しい戦いが始まった。イシェは冷静さを保ち、テルヘルの指示に従い、獣に矢を放った。
刹那、獣の動きが止まった。ラーンの剣が獣の喉元を貫き、息絶えた。静寂が戻ってきた。
「大丈夫か？」テルヘルが近づき、ラーンとイシェの状態を確認した。ラーンは深く息を吸い込み、「ああ…なんとか…」と呟いた。イシェも安堵のため息をついた。
「あの獣は何だったんだ？」イシェが尋ねた。テルヘルは沈黙し、地図を広げた。「この遺跡には、かつての文明の守護者たちが眠ると言われている…」彼女は言葉を濁した。
ラーンは疲れた様子で、「大穴」の話をするのをやめて、静かに遺跡から戻っていくことを決めた。イシェも彼を見つめ、何かを悟ったように頷いた。