ラーンがいつものように大口を開けて笑うと、イシェはため息をついた。「またそんなことを言うのかい？」
「だってさ、今日はきっと何か見つかる気がするんだ！」
ラーンの目は輝いて、遺跡の入り口に足を踏み入れた。イシェは後ろから彼を睨みながら、テルヘルに視線を向けると、テルヘルは静かに頷き、先へ進んだ。
ビレーの街から少し離れた場所にあるこの遺跡は、小規模ながらも数々の罠が仕掛けられており、過去に何度も冒険者たちの命を奪ってきたと言われている。イシェはいつも緊張感の中に身を置く。特にテルヘルと行動を共にしている時は尚更だ。彼女は常に何かを企んでいるような気がしてならないのだ。
「ほら、見つけたぞ！」ラーンの声が響き渡る。彼は石の破片を片付けながら、小さな金属製の箱を発掘した。イシェが近づいて箱を開けると、そこには何やら複雑な模様が刻まれた制服のボタンが入っていた。
「これは…」イシェは眉間にしわを寄せた。「ヴォルダン軍のものに似ている気がするけど…」
テルヘルはボタンを手に取り、細部を観察した。彼女の表情は曇り、何かを思い出したかのように目を閉じた。そしてゆっくりと口を開く。「このボタン…ヴォルダン王家の紋章だ」
ラーンは興味なさそうに、「へえー、そうなんだ」と呟くが、イシェは心の中で波紋が広がるのを感じた。なぜテルヘルがこの遺跡に来たのか？ボタンの意味するものは何なのか？そして、ヴォルダン王家とは一体何の関係があるのか？
イシェは不安を抱えたまま、遺跡から立ち去った。夕暮れ時になってビレーに戻るとき、彼女はラーンの背中にテルヘルの影が重なっているように見えた。