「よし、準備はいいか?」ラーンが剣を構えながら、イシェとテルヘルに尋ねた。ビレーから少し離れた遺跡の入り口で、三人は今日最後の探索を行う予定だった。
「まだ日も高いのに、なぜ急いでいるんだ?」イシェは眉間に皺を寄せながら言った。「今日は無理せず、明日にでも来れば…」
「いや、今日は絶対に決めなければならないことがあるんだ」ラーンはイシェの言葉に耳を貸さず、遺跡の入り口へ足を踏み入れた。テルヘルは静かに彼らを後を追った。彼女の目は鋭く、常に周囲を警戒していた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。石造りの通路を進んでいくと、やがて広間に出た。そこには、巨大な石碑が安置されていた。石碑の表面には複雑な模様が刻まれており、テルヘルは興味深そうにそれを観察していた。
「これは…」テルヘルは呟いた。「ヴォルダン帝国の紋章だ。ここに何があったのか…」
ラーンの脳裏をよぎったのは、テルヘルがヴォルダンに奪われたものについて話した夜のことだった。復讐心で燃える彼女は、ヴォルダン帝国に関するあらゆる情報を求めていた。そして、その情報提供には高額な報酬と引き換えだった。
「この遺跡は、ヴォルダン帝国の拠点だった可能性がある」テルヘルは言った。「もしそうなら、ここで何か重要なものが見つかるかもしれない」
ラーンの心は高鳴っていた。大穴を掘り当てる夢と、テルヘルの復讐に協力して報酬を得るという現実的な利益。二つの欲望が彼を駆り立てた。
「よし、探してみよう!」ラーンが叫んだ。イシェはため息をつきながら、二人が遺跡内部を探索する様子を見守った。
数時間後、三人は石碑の背後にある隠し部屋を発見した。部屋の中央には、小さな箱が置かれていた。テルヘルが慎重に箱を開けると、そこには金貨と宝石がぎっしり詰まっていた。
「やった!」ラーンの顔は喜びで輝いていた。「これでしばらくは暮らせるぞ!」
イシェも思わず笑顔になった。しかし、彼女の心には不安が残っていた。この遺跡から得た宝物は、確かに大きな利益をもたらすだろう。だが、それは同時にテルヘルの復讐心にも火を注ぐものであり、やがて彼女をさらに危険な道へと導く可能性もあった。
「これで十分だ」テルヘルは言った。「この金貨で、次の計画を進めることができる」彼女は宝物を全て自分のものにするつもりだった。ラーンとイシェに報酬を与えるのは、あくまで約束を守るためだけであった。
イシェはテルヘルの言葉から、彼女が抱く深い闇を感じ取った。そして、自分たちにとってこの遺跡の探索が、単なる冒険ではなく、大きな危険へとつながっていく予感に襲われた。