「よし、今回はあの崩れた塔だ!」
ラーンが目を輝かせ、地図を広げる。イシェは眉間に皺を寄せた。
「またそんな危険な場所?あの塔は崩落寸前だって噂だよ。遺跡好きの連中も近付けないって言ってるじゃないか」
「大丈夫大丈夫!俺が前に進むから、イシェは後ろから見ててくれればいいんだ」
ラーンの豪快な笑いに、イシェはため息をついた。
テルヘルは、彼らのやり取りを冷めた目で眺めていた。
「今回は特に慎重に。あの塔にはヴォルダンの兵士が潜んでいる可能性もある。遺物よりも安全を第一にすることだ」
ラーンはテルヘルの言葉に反発するような顔をしたが、イシェが頷いたのを見て渋々納得したようだ。
崩れかけた塔の入り口に立った時、ラーンは少しだけ躊躇した。イシェが彼の後ろから小さく手を伸ばし、背中を押した。その瞬間、塔の上部から轟音が響き渡り、石塵が舞い上がった。ラーンの顔は一瞬硬化した。
「逃げろ!」
テルヘルの叫び声が聞こえたが、遅かった。崩れ落ちる石の下敷きになりそうになったラーンをイシェが必死に抱え上げた。
「ラーン!大丈夫か?」
イシェの声がかすれた。ラーンは目を閉じ、苦しそうに息を吸い込んだ。
「イシェ…ごめん…俺…」
彼の言葉は途中で途絶えた。イシェはラーンの目をじっと見つめた。その時、彼女の瞳の奥から何かが失われたような気がした。崩れゆく塔と共に、彼らの未来も暗闇の中に消えていった。
テルヘルは、瓦礫の山を前に立ち尽くしていた。イシェの姿が見えない。
「イシェ…」
彼女は呟いた。ラーンを失った悲しみよりも、イシェのことが心配だった。あの塔で何が起こったのか。生きているのか。
テルヘルは深呼吸し、決意したように歩き始めた。ヴォルダンへの復讐を果たす。そして、イシェを見つけ出すために。たとえどんな犠牲を払わなければならないとしても。