ラーンが遺跡の入り口で深呼吸をした時、イシェは背後から小さくため息をついた。「また、大穴だなんて言ってるわね。今回は本当に大穴が見つかる気がしない」
ラーンの胸が高鳴った。「いや、今回は違う!なんか感じるんだ。今回はきっと!」
イシェはそんなラーンの熱意を冷たく遮るように言った。「感じる?あなたが感じるって言うからには、あの時みたいに、巨大な蜘蛛の巣に絡まった罠だったんじゃないわよね?」
ラーンは苦笑した。「あいつは不運だっただけさ。それに、今回はテルヘルが一緒だぞ!」
イシェはテルヘルの存在を考えると少しだけ心がざわついた。「そうね…テルヘル様なら何か情報を知っているかもしれないわね」
テルヘルはいつも冷静で、目的のためなら手段を選ばない女性だった。ラーンは彼女に憧れと少しの恐怖を感じていた。イシェがそんなテルヘルに惹かれていることに気づいているつもりではなかったが、イシェの視線はいつもテルヘルの背中に注がれているように見えた。
「よし!入ろう!」
ラーンが遺跡の入り口に足を踏み入れた時、イシェは一瞬だけ彼の後ろ姿を見た。あの日、幼い頃にラーンの笑顔を見た時のように、胸が痛んだ。あの頃はまだ、何も知らない子供だった。でも、今はラーンと一緒に遺跡を探し、危険を共に分かち合っている。
イシェは自分の気持ちを整理した。「ラーンはいつも私のことを…」
「イシェ、何かあったか?」ラーンの声が響いた。イシェは慌てて顔を上げると、ラーンの瞳が優しく輝いていた。イシェは小さく頷き、彼と一緒に遺跡の奥へと進んでいった。