ラーンの大斧が岩盤を砕き、埃が立ち上る。イシェは咳き込みながら、「あの奥だ、あの崩れた柱の隙間から見える、あの光…」と指摘する。ラーンはうなずき、テルヘルが示した地図を確認しながら、慎重に進む。
狭い通路を進んでいくにつれ、空気が重く、湿気を帯びてきた。イシェは背筋を寒気がする。いつもなら、ラーンの軽率さに呆れながらも、彼の行動力に引っ張られるように進んでいくのだが、今回は何かが違っていた。
「ここだな」テルヘルが呟き、崩れた柱の隙間から差し込む光に向かって手を伸ばす。その光は不自然なほど鮮やかで、まるで生きているかのように脈打っているように見えた。ラーンがテルヘルの後ろに立ち、イシェも静かに続く。
「これは…！」テルヘルが声を上げる。石畳の上に置かれた、金色の小さな箱。装飾は複雑で精緻だが、どこか不気味な美しさがあった。
その時、床から何かが這い上がるように現れた。黒い影が箱の周りを旋回し、空気を震わせる低い唸り声をあげる。ラーンは剣を抜き、イシェも小刀を握る。「何だ！？」ラーンの怒号が響き渡る。
「遺跡の守り手だ」テルヘルは冷静に言った。「この箱を守るために存在するのだ。触れるな！」
しかし、遅かった。ラーンの足元から黒い影が伸びてきて、彼の足首を締め付ける。ラーンが苦しみ声を上げると、イシェは咄嗟に小刀を投げつけた。影はわずかに怯んだが、すぐに元の形に戻り、ラーンをより強く締め付けた。
「やめてくれ！ 」ラーンの叫び声は切迫感に満ちていた。イシェは剣を抜いて影に斬りかかるが、刃は影を貫通しただけで効果がない。テルヘルは冷静さを保ち、箱から何かを取り出すように手を伸ばす。
「待て！」イシェが叫んだ。「あの箱を開けるな！ 」
しかし、テルヘルの動きは止まらなかった。彼女は箱の蓋に触れると、同時に影はラーンを巻き込み、彼を消し去るように闇の中に飲み込んだ。