「準備はいいか?」
テルヘルが鋭い視線でラーンとイシェを見据える。薄暗い遺跡の入り口に立ち、冷たい風が二人を包む。イシェは小さく頷き、ラーンの顔にはいつもの Carefreeな笑みが浮かんでいた。
「よし、行こうぜ!」
ラーンが先陣を切って遺跡へと足を踏み入れる。イシェはテルヘルの後ろを歩きながら、背後から聞こえる彼女の足音の音が、いつもより重く感じられた。
遺跡の中は薄暗く、湿った石畳の上を進んでいくと、空気が冷たくなり、不気味な静けさに包まれていた。ラーンの明るい声だけが響き渡る。
「おいイシェ、何かあったか?」
イシェは振り返ると、ラーンが壁に刻まれた古代文字を指さしていた。
「ただの模様じゃないみたいだな」
テルヘルが近づき、文字を指でなぞりながら呟いた。
「ヴォルダン王国の文字だ。ここには何らかの秘密があるはずだ」
イシェの胸に冷たい風が吹き抜けた。テルヘルの目的は遺跡の遺物ではなく、ヴォルダンへの復讐だった。そのために彼女を利用しているのかもしれない。
ラーンが興奮気味に言った。
「もしかして大穴か!?俺たちの運命を変える財宝が見つかるかもな!」
イシェはラーンの言葉に苦笑いした。ラーンの無邪気さは、イシェを少しだけ安心させてくれた。だが、彼もまた、テルヘルの真意を知らないまま、危険なゲームに巻き込まれている。
深く暗い遺跡の奥へ進むにつれ、イシェは自分の心に潜む不安と切なさを感じることが増えた。いつかラーンと静かに暮らす夢を、イシェは諦めなければいけないのだろうか。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいくが、そこには希望よりも、暗く冷たい真実だけが待ち受けているようだった。