ラーンが剣を振るう音だけが、静かな遺跡の空気を掻き乱す。イシェは彼の後ろを少し遅れて進み、足元を照らすランタンの光で壁に刻まれた古代文字を探していた。
「何かあった?」
ラーンの声に、イシェは小さく頷く。
「ここには何かの警告文が刻まれているみたいだ。危険を知らせるものかもしれない」
ラーンの眉間にしわが集まった。「そんなこと言ってても仕方がないだろう。遺跡の奥には必ず何かがあるはずだ。あの大穴を見つけ出すんだ」
イシェはため息をつき、背後から聞こえてくるテルヘルの冷たい視線を感じた。
「少し落ち着いてください。警告を無視して進むのは危険です」
ラーンの耳には入っていなかった。彼はすでに奥へと進んでおり、イシェの制止を振り切って薄暗い通路に足を踏み入れた。
テルヘルは小さく舌打ちした。
「あの男は本当に…」
彼女はイシェに目を向け、少しだけ口角が上がる。
「でも、その無謀さも彼の魅力の一つなのよね」
イシェはテルヘルの言葉に戸惑いを見せた。
「あなたも彼を信頼しているのですか?」
テルヘルは静かに頷く。「彼はヴォルダンとの戦いに必要だ。そして、この遺跡に眠る何かを見つけ出す鍵になるかもしれない」
イシェは深くため息をつき、再びランタンの光を前方に向け始めた。
「わかった。では、私たちは彼を信じて進むしかないようだ…」
彼らはラーンの後を追って進み続けた。遺跡の奥深くへと続く道は、分岐点が多く、それぞれの道が異なる目的へとつながっているように思えた。
イシェは少し不安を感じながらも、テルヘルの冷静な判断とラーンの行動力に頼り、遺跡の謎を解き明かすために足を進めることを決意した。