ビレーの夕暮れは、山々に囲まれた街を茜色に染めた。ラーンが酒場で豪快に笑いながら杯を傾ける横で、イシェは眉間に皺を寄せ地図を広げていた。
「また遺跡探検か？ 今日はいい加減にして、少し休もうよ」
イシェの言葉にラーンはにやりと笑った。「休むなんて言わないでくれ！ 次こそ大穴が見つかるって気がするんだ！」
ラーンの目は輝いていたが、イシェにはどこか虚しさが感じられた。ラーンの夢を応援したい気持ちはあるものの、いつまでもこの生活が続くとは思えなかった。
「あのテルヘルは本当に信用できるのかな？」
イシェの疑念に、ラーンは肩をすくめた。「ああな、テルヘルは頼りになるぜ！ あの女なら、きっとヴォルダンへの復讐を果たせるって！」
ヴォルダン。その名前を聞くだけでラーンの目は燃えるように輝き、イシェは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。ヴォルダンとの抗争、それがテルヘルをこの街へと導いた理由だった。だが、イシェには理解できないものがあった。なぜ自分たちの小さな街で、ヴォルダンと戦う必要があるのか。
「ヴォルダンがすべてを奪ったって…一体何があったんだ？」
イシェの問いかけに、ラーンは言葉を濁した。「それはテルヘル自身が決めることだ。俺たちは遺跡を探し、彼女を助ければいいんだ」
イシェはラーンの言葉に納得することはできなかった。
翌日、三人は新たな遺跡へと向かった。遺跡は険しい山道にあり、行くにつれて周囲の空気は重くなっていった。イシェは背筋がゾッとするような予感を覚えた。
「何か感じる…何かがおかしい」
イシェの不安を察したラーンは剣を握りしめ、警戒を強めた。「心配するな、俺が守る！」
遺跡の中は暗く湿っており、不気味な静けさに包まれていた。壁には奇妙な文字が刻まれ、床には朽ちた骨が散らばっていた。
「ここ…何か変だ」
イシェの言葉通り、遺跡に潜む何かが彼らをじっと見つめているような気がした。
その時、突然、壁から光が放たれ、遺跡は一瞬にして明るくなった。そして、その光の中心に、テルヘルが立っていた。
彼女の顔には冷たい笑みが浮かんでおり、手に持った遺物は邪悪なオーラを放っていた。
「これで終わりだ…」
テルヘルの言葉にラーンとイシェは言葉を失った。遺跡の奥から聞こえてくる轟音は、彼らの希望を打ち砕くように響き渡り、二人の間に深い溝が刻まれた。
「お前は…一体何をしようとしているんだ？」
ラーンの問いには、テルヘルは嘲笑を浮かべた。
「私は復讐を果たすためにここに来た。そして、お前たちはそのための道具に過ぎない」
イシェは絶望感に襲われた。彼女はなぜこんな場所に連れてこられたのか、なぜラーンを巻き込んだのか、理解できなかった。
分断。それは遺跡の奥深くで、彼らを少しずつ隔てようとしていた。