「よし、今日はあの洞窟だ！」ラーンが剣を肩越しに担ぎ、ビレーの町を見下ろす崖の上で声を張り上げた。イシェは眉間にしわを寄せて地図を広げた。「また行き当たりばったりか？ 以前にも言っただろう、あの洞窟は危険すぎるぞ。特に今は…」
「大丈夫だ、大丈夫！」ラーンがイシェの言葉を遮り、陽気に笑った。「大穴が見つかる予感がするんだ！ほら、今日は何か違う感じがしないか？」
イシェはため息をつきながら地図をしまう。「いつもそう言うじゃないか。それに、あの洞窟にはヴォルダンの魔の手が伸びているって噂があったはずだ。何よりも、テルヘルが急いでいる様子だし…」
「ああ、テルヘルか」ラーンは少しだけ表情を曇らせた。「あの女は一体何のために遺跡を探しているんだ？」
イシェは何も言わずに、ラーンの背後から彼をじっと見つめた。ラーンの豪快な性格とは対照的に、イシェはテルヘルに対して警戒心を抱いていた。彼女の過去については何も語らず、目的も曖昧だった。ただ、彼女がヴォルダンへの復讐を誓っていることは確かで、その復讐のためにどんな手段を使っても厭わないだろうということは、イシェには肌感覚で伝わってきた。
「準備はいいか？ 行くぞ！」ラーンが崖下へと駆け出していく。イシェはため息をつきながら、ラーンの後を続けた。洞窟の入り口に近づくと、テルヘルが待っていた。彼女はいつもと違う表情をしていた。顔色が悪く、目は血走っていた。
「準備はいいか？」テルヘルは鋭い声で尋ねた。「今回は特別だ。あの洞窟には、ヴォルダンとの関わりを示す重要な遺物がある可能性が高い。我々はそれを手に入れる必要がある」
イシェはテルヘルの言葉に戦慄を感じた。ヴォルダンとの関わり…それは一体何なのか？そして、なぜテルヘルはそこまでヴォルダンを憎んでいるのか？
洞窟へと足を踏み入れた瞬間、冷たい風が吹き付け、不気味な影が彼らを包んだ。イシェはラーンの後ろから、テルヘルの動きをじっと見つめていた。彼女の背後には、何か暗い秘密が隠されている気がした。そして、その秘密が自分たちの運命と深く関わっていることを、イシェは本能的に感じていた。