ビレーの市場で、ラーンが大きな声で値切り合戦をしていた。イシェはいつものように眉間にしわを寄せていた。
「ラーン、またそんな大物買おうとしたりしないよね? 今回の報酬は遺跡調査の費用に充てるべきだと言ったでしょう」
ラーンの耳には入っていない。彼の視線は巨大な猪の肉塊を追いかけていた。イシェの警告も聞こえないうちに、ラーンは肉を掴んで値切り始めた。
「おい、この肉、見ろよ! これだけの大きさでこの値段? outrage! だが、俺様は偉大な遺跡探検家だ! 君にはわからないだろう」
イシェはため息をついた。ラーンの大口にいつも巻き込まれてしまうのだ。
その時、背後から冷たげな声がした。「その無駄遣いをやめてください。時間とお金の浪費です」
テルヘルが鋭い視線で二人を見下ろしていた。「準備は整っていますか? 今日は重要な調査です」
ラーンは慌てて肉を放り投げ、イシェに肩を叩いて笑った。「ああ、もちろん! さあ、イシェ、今日は大穴が見つかる予感がするぞ!」
イシェはテルヘルの冷たい視線を感じながら、小さく頷いた。いつも通りの遺跡調査の日が始まる。
遺跡の入り口で、ラーンがいつものように剣を抜いた。
「よし、イシェ、行くぞ! テルヘルさん、後ろを固めてください」
イシェは Sighし、テルヘルは鋭い目で遺跡の内部を見つめた。三人は遺跡の奥深くへと進んでいった。
暗くて湿った通路を進み、石造りの階段を下りると、広大な地下空間が現れた。そこには、かつての文明の痕跡が残る壮麗な寺院があった。壁には複雑な模様が刻まれており、床には謎の記号が描かれていた。
「すごい…」イシェは息をのんだ。ラーンは目を輝かせ、テルヘルは冷静に周囲を警戒しながら、遺跡の構造を分析していた。
彼らは慎重に寺院の中を進んでいく。そして、中央に巨大な石棺を発見した。石棺の上には、まるで宝箱を開ける鍵のような複雑な装置が取り付けられていた。
「これは…!」ラーンの目が輝きを増す。「大穴だ! ここに何かがあるはずだ!」
イシェは不安を隠せない。「ラーン、落ち着いて。あの装置に触れるのは危険すぎるぞ」
だが、ラーンの耳には届かなかった。彼は興奮して石棺に近づき、装置に触れようとしたその時、突然、地面が激しく震えた。
壁から崩落音が響き渡り、天井から石が落ちてきた。三人は慌てて身をかわした。
「これは…何かが起こった!」イシェは叫んだ。
テルヘルは冷静に状況を判断し、「遺跡が崩壊するぞ! すぐに逃げろ!」と命じた。
三人は崩れ落ちる寺院から必死に逃げ出した。出口近くの通路で、彼らはようやく安全な場所にたどり着いた。振り返ると、寺院は完全に崩れ落ちており、かつての栄華は跡形もなく消えていた。
ラーンは肩を落とした。「ああ…また失敗か…」
イシェは疲れた表情を見せながら言った。「今回は本当に危なかったよ。ラーン、もうそんな危険なことはやめてくれないか?」
ラーンの顔には、いつもの明るい笑顔が戻っていた。「いや、まだ諦めないぞ! 次こそは必ず大穴を見つける!」
テルヘルは二人のやりとりを静かに見ていた。彼女の目は遺跡の崩壊物ではなく、遠く彼方にある何処かを向いていた。彼女は何かを考え、そして何かを計画していた。
遺跡調査から持ち帰った遺物の出荷を、彼女は既に別の場所に手配済みだった。それは、ヴォルダンへの復讐に近づけるための第一歩だったのだ。