「おい、イシェ、待てよ!」
ラーンが息を切らしながらイシェの後を追いかける。薄暗がりの中、足元には不安定な石畳が広がる。遺跡の奥深くへと続く通路は、まるで巨大な獣の口が開いたような形をしていた。
「何だ、また何か見つけたのか?」イシェは振り返り、ラーンの肩を軽く叩く。
「いや、違うんだ」ラーンは少し落ち着きを取り戻し、イシェの顔を見つめた。「あのね、テルヘルが言うには、この遺跡には何か特別な遺物があるって聞いたんだ。もしかしたら…」
ラーンの目は輝いていた。イシェはため息をついた。
「また大穴の話か?ラーン、あの遺跡探索の依頼は、テルヘルがヴォルダンに復讐するための資金を稼ぐためなんだって。大穴なんて、ただの夢だぞ」
ラーンの顔色が曇る。「でも、もしかしたら…」
イシェはラーンの言葉を遮った。「僕たちには、それよりも大切なことがあるんじゃないのか?」
二人はしばらく沈黙した。遺跡の奥から、不気味な音が聞こえてくる。
「よし、わかった」ラーンは言った。「今日はここまでにしよう。明日にでも、テルヘルに報告するよ」
イシェはうなずいた。二人はゆっくりと遺跡を後にする。
夜空には満月が輝いていた。ビレーの街の灯りが、遠くからかすかに見える。ラーンの心には、イシェとの思い出が浮かんだ。幼い頃からの友情、そして、いつか故郷を出て、広い世界を見てみたいという夢…。
「イシェ…」ラーンは呟いた。「僕たちは、一体何者なんだ?」
イシェは何も言わずに、ただラーンの肩に手を置いた。二人は互いに、心の奥底にある問いかけを共有していた。それは、自分たちの出生について、そして、この世界に生きる意味についての問いかけだった。