ビレーの夕暮れは、荒涼とした山脈の影を長く伸ばし、街に薄暗い色を落とす。ラーンとイシェは、今日も遺跡から骨抜きになったように疲れた体を引きずり、酒場でグラスを傾けていた。
「またハズレだったな」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。「あの古代の記号が解読できれば…」
「ああ、あれさえ分かればな。テルヘルも大喜びだろうし、次の依頼も楽勝だ」
だが、イシェの心には不安が渦巻いていた。テルヘルの目的は何か。ヴォルダンへの復讐とは?その憎悪はどこから生まれるのか?そして、自分たちは一体何のために遺跡を探索しているのか…。
「おい、お前ら、まだやる気か?」
酒場の奥から、大きな声で男が話しかけてきた。男は、荒々しい顔立ちに傷跡の残る、明らかに危険な雰囲気の人物だった。彼の視線は、イシェではなくラーンに向けられていた。
「いいだろう、俺たちはまだやる気があるぞ」
ラーンの言葉に、イシェは言葉を失った。テルヘルが持ちかけてきた依頼とは違うものを感じたのだ。何かが、この街で動き始めていた。それは、出来合いの物語ではなく、彼らの運命を大きく変える、新たな物語の始まりだった。