ラーンが剣を研ぎ澄ます音だけが、静かなビレーの宿屋に響いていた。イシェは地図を広げ、指で遺跡の位置を確認する。いつも通りの光景だが、今日は何かが違う。ラーンの顔にはいつもの Carefree な笑顔ではなく、硬い表情が浮かんでいた。
「準備はいいか？」テルヘルが鋭い視線で二人を睨みつけた。「今回は大物だ。失敗は許されない。」
イシェは小さく頷く。いつもより多くのお金を前払いしてもらっていた。その額は、単なる遺跡探索の報酬ではない何かを感じさせた。ラーンの表情からも、テルヘルの目的の重大さが伝わってくる。
「よし、行こう！」ラーンが立ち上がり、宿屋から飛び出した。イシェもテルヘルに続いて外に出ると、冷たい朝の風が頬を刺す。ビレーの街並みは、まだ薄暗い空の下で静まり返っていた。
「今日はいつもと違うな」イシェが呟いた。ラーンはいつものように豪快に笑って答えたが、彼の目はどこか遠くを見つめていた。
遺跡への道は険しく、日が暮れるまでにようやく目的地に到着した。そこは、かつての戦場跡だった。崩れかけた石造りの壁や、錆びた武器が散乱している。
「ここが目標か…」イシェが地図を広げると、テルヘルが指さす地点に大きな穴が開いていることに気づいた。「遺跡の中心部だ。ここには何かがあるはずだ。」
テルヘルは先頭に立ち、暗い洞窟の中へと進んでいった。ラーンとイシェは互いに顔を合わせ、頷き合った。彼らはいつも通りの冒険だと思っていたが、今回は何かが違った。
洞窟の奥深くで、テルヘルが何かを発見したように声色を張り上げた。「ここにあった！」
イシェは振り返ると、ラーンの顔色が蒼白になっていることに気がついた。「どうしたんだ？ 」
ラーンの瞳に映っていたのは、洞窟の奥にある巨大な石碑だった。その石碑には、複雑な紋章が刻まれており、その下に「出征」という文字が鮮明に刻まれている。
「これは…」イシェは言葉を失った。ラーンは硬い表情で石碑を見つめていた。彼が今、何を考えているのか、イシェには分からなかった。しかし、彼の瞳から感じ取れるのは、強い不安と、そしてどこか諦めのようなものだった。