「準備はいいか?」ラーンの声が響く。イシェは背中の荷物を軽く締め直した。いつも通りの光景だ。ビレーの朝焼けが遺跡へと続く道を照らし、ラーンとイシェはテルヘルと共に歩き出す。
今日は特に緊張感が漂っていた。「あの遺跡は危険だと言われている」とイシェが呟くと、ラーンはいつものように笑って、「大丈夫だ、俺たちならなんとかなるさ」と返した。だが、イシェの心はざわつく。テルヘルの目的は謎のままだった。ヴォルダンへの復讐という言葉を聞いた時、イシェは彼女の中に燃える怒りを感じたが、その怒りはどこか不気味にも思えた。
遺跡の入口に近づくにつれて、空気が重く、冷たくなっていくのを感じた。壁には奇妙な彫刻が施され、まるで警告のように見えた。「ここには何かいる」イシェはそう呟いたが、ラーンは気にせず、剣を手に取り、遺跡へと踏み入れた。
内部は暗く、埃っぽい。足元は不安定で、崩れそうな石柱が立ち並ぶ。イシェは緊張した息を吐き出す。ラーンの背後を歩きながら、常に周囲に気を配っていた。テルヘルは先頭を進み、時折振り返って地図を広げ、指示を出す。
進むにつれて遺跡の奥深くに何かがいるような気がしてくる。イシェは背筋が寒くなるのを感じた。そしてついに、彼らは大きな部屋に出た。部屋の中央には巨大な石碑が立っていた。その石碑の上には、奇妙な模様が刻まれており、まるで生きているかのように光を放っている。
「これは…」テルヘルは目を輝かせ、ゆっくりと石碑に近づいていった。「ここに答えがある」と呟いた。
ラーンは興奮気味に石碑を触ろうとしたが、イシェは彼を制した。「待て!」イシェの声が響き渡った。その時、石碑から不気味な光が放たれ、部屋中に広がった。イシェは目を細めて光源を探したが、見当たらなかった。
「これは一体…」ラーンの声が震えている。テルヘルは石碑を見つめ、「ついに…見つけた」と呟いた。だがその瞬間、壁の奥から何かが動き出した。それは巨大な影で、まるで生きているかのようにうねりながら彼らに襲いかかってきた。
イシェは恐怖を感じながらも、冷静に状況を判断した。「逃げろ!」と叫び、ラーンを引っ張って部屋の外へと走り出した。テルヘルも後を追うが、その顔には狂気のような光が宿っていた。
彼らは遺跡から必死に逃げるが、巨大な影は容赦なく彼らを追いかけてくる。イシェは振り返らずに走り続ける。だが、足が重く、息苦しくなった。
「もうダメだ…」イシェは絶望を感じたその時、ラーンの声が聞こえた。「イシェ、俺がついてる!」ラーンはイシェの手を掴んで引っ張り、力強く走り出した。イシェはラーンの強さに驚きながらも、希望が湧いてきた。
彼らは何とか遺跡から脱出し、ビレーへと戻ることができた。しかし、巨大な影とテルヘルの狂気は、彼らを深く悩ませる影となって残った。彼らの冒険は始まったばかりだった。