ラーンの粗雑な斧 swing が埃を巻き上げ、薄暗い遺跡の奥深くへと響き渡った。イシェは眉間に皺を寄せ、かすかな音を聞き逃さないよう耳を澄ましていた。テルヘルは背後から、低い声で「無駄だ。あの石壁には何もない」と呟いた。ラーンは不機嫌そうに斧を肩に担ぎ、「俺の感覚が間違いないってんだ!」と反論した。
イシェは二人を見つめ、ため息をついた。「落ち着きましょう。テルヘルさんの言う通り、この遺跡は既に多くの探検隊が訪れたはずです。残されたものは限られています」
だが、ラーンの目は輝いていた。彼はまだ希望を捨てていなかったのだ。イシェは彼の瞳に映る、あの日見た夢の煌めきを思い出した。ビレーの貧しい街並みを抜け出して、遥か彼方の輝く大都市へ。それは彼にとって、遺跡探検という過酷な現実から逃れるための唯一の道だった。
その時、イシェの足元で何かが光った。小さな水晶球が、埃に覆われた石畳の上で静かに輝いている。イシェは息を呑んだ。水晶球はわずかなエネルギーを宿しており、かすかに脈打つように光っていた。それは、遺跡探索者にとって最も希少な遺物の一つだった。
「これは...!」イシェの言葉を遮るように、ラーンが叫んだ。「大穴だ!俺が言っただろう!大穴が見つかったぞ!」
テルヘルは冷静に水晶球を手に取り、その表面を指で撫でた。「価値のあるものだ」と彼女は呟いた。だが、彼女の目は水晶球ではなく、遠く彼方を見据えているようだった。ヴォルダンへの復讐。そのために必要なものは何か。この小さな水晶球が、彼女にどのような道を示してくれるのか。
イシェは二人の後ろ姿を見ながら、胸の奥底で不安を感じた。彼らは確かに「大穴」を掘り当てたのだ。だが、その先に待つのは本当に希望なのか、それとも更なる苦難なのか。それは誰も知らない。