「よし、今回はあの崩れかけた塔だ！噂では最深部に秘宝が眠っているって話じゃねえか？」ラーンの声がビレーの tavern に響き渡る。イシェはため息をつきながら、彼の興奮を冷やすように言った。「また噂話に踊らされるんじゃないの？いつも大穴だと騒いでたのに、結局は錆びた剣とか使い物にならぬ石ころしか出てこないじゃない。」
「違うって！今回は感じが違うんだ。ほら、テルヘルさんも賛成してくれてるだろ？」ラーンが得意げに振り返ると、テルヘルは薄暗い目を細めたままだった。「塔の構造から判断すると、確かに何か隠されている可能性は高い。ただし、ヴォルダンの兵士が以前からその周辺を警戒しているという情報もある。無策で入れば命を落とすぞ。」
ラーンはテルヘルの警告を軽く聞き流した。「大丈夫だ！俺たちにはイシェがいるじゃないか！あの頭脳があればどんな罠もかわせるさ！」イシェは眉間に皺を寄せた。「罠をかわすどころか、あの塔の構造を見ても、俺にはどうにも…」
「ほら、心配しないでくれよ！俺は必ず大穴を掘り当ててみせるからな！」ラーンの自信に満ちた声に、イシェは言葉を失った。テルヘルは彼らをじっと見つめ、静かに言った。「いいだろう。だが、今回は私が先導する。私の指示に従い、安全第一で行動しろ。」
夜が更け、月明かりの下、三人は塔へと足を踏み入れた。崩れ落ちた石畳と苔むした壁に囲まれた暗い通路を進むにつれて、重苦しい空気が彼らを包み込む。ラーンの軽快な足取りは消え、イシェの表情はますます険しくなる。
テルヘルは慎重に前を進みながら、壁に刻まれた古びた文字を読み解いていた。「ここはかつてヴォルダンの占領地だったようだ。この塔には何か重要なものが隠されているはずだ。」彼女の言葉に、ラーンは興奮を隠しきれない様子で言った。「そうか！だからあの兵士が警戒してたんだな！きっと大穴だな！」
イシェはラーンの無邪気さに呆れながらも、テルヘルの指示に従い、周囲の状況を警戒する。しかし、その時、床の一部が崩れ落ち、ラーンが深淵に突き落とされてしまう。
「ラーン！」イシェの声が塔内にこだました。「大丈夫か！？」
崩れた箇所の近くに駆け寄ると、ラーンの姿が見えた。彼は怪我はなかったものの、顔色は蒼白で、恐怖で体が震えている。「こ、怖いよ…」ラーンの声は震えていた。テルヘルは冷静に状況を判断し、イシェに言った。「彼を助けろ！私は先に進む。」
イシェは迷わずラーンを助け上げた。彼はまだ恐怖に怯えていたが、イシェの励ましに少しずつ落ち着きを取り戻していった。テルヘルは一人で塔の奥へと進んでいった。彼女の背中には、何かを凌駕する強い意志が感じられた。