ビレーの朝の薄闇の中、ラーンがイシェを起こした。「起きろ、イシェ！今日はテルヘルが待ってるって言うんだぞ！」イシェは眠ぼけ eyed で彼を見る。「また遺跡か...。昨日の晩に飲み食いして騒いでる場合じゃないだろう」と呟きながら、立ち上がった。
「ほら、そうやって言ってるとテルヘルに怒られるぞ！」ラーンは陽気に笑ったが、イシェは彼の笑顔にも冷めた空気が漂うと感じた。テルヘルはいつも彼らの冒険に高額な報酬を約束する代わりに、危険な遺跡の探索を強要するのだ。
ビレーの広場に立つテルヘルの姿は、朝もやの中に浮かぶ幽霊のように見えた。彼女の鋭い視線はラーンとイシェを見据え、氷のように冷たかった。「今日は特別だ。ヴォルダンとの国境に近い遺跡へ行く。危険だが、そこで見つけられるものは...我々の復讐に必要不可欠なものだ」
イシェはテルヘルの言葉に背筋が凍りつくのを感じた。彼女はいつも何かに執念深く追われているようだった。その執念は、まるで冷たい炎のように彼らを燃やし尽くすような気がした。「準備はいいか？」テルヘルが問いかけた時、ラーンはいつものように無邪気な笑顔を見せた。イシェは彼の様子を見て、胸に冷たい不安を抱えたまま、遺跡へと続く道を歩み始めた。
遺跡の入り口は、まるで獣の口のように開いていた。薄暗い通路は、過去の栄光を物語る石柱が崩れ落ち、埃まみれの影で覆われていた。ラーンが先頭を歩き、イシェが後をついていく。テルヘルは後ろから二人を見下ろすように歩いていた。彼女は常に冷静沈着で、まるで遺跡の危険な罠にも怯えることなく、目的達成のためにはどんな犠牲も厭わないようだった。
深い闇の中を進んでいくにつれ、空気が重くなり、イシェの不安は募るばかりだった。ラーンは相変わらず無邪気に遺跡を探索していたが、イシェは彼の無気力さに苛立ちを感じ始めていた。
やがて、彼らは巨大な石の扉にたどり着いた。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように脈打っていた。「これは...」イシェは言葉を失った。扉の上には、ヴォルダン国章と酷似した紋章が描かれていた。
テルヘルは目を輝かせた。「ついに...見つけた！」彼女は扉を力ずくでこじ開けた。その瞬間、冷たい風が吹き荒れ、遺跡の奥深くから不気味な光が放たれた。イシェは背筋が凍りつくのを感じた。そこには、ヴォルダンとの戦いを象徴するような、恐ろしい秘密が眠っているに違いないと確信した。そして、その秘密に巻き込まれる恐怖が、彼女をゆっくりと飲み込んでいくのを感じた。
ラーンは興奮気味に扉の奥へと足を踏み入れた。「さあ、イシェも行くぞ！」彼の声は、まるで冷たい風が吹き抜けるような音だった。イシェはためらいながらも、彼の後を追う。テルヘルの冷たい笑みが、彼女を後ろから追いかけてくるようだった。