「おい、イシェ、今日はいい感じの場所見つけたぞ!」ラーンが興奮気味に叫びながら、石畳の上で転げ落ちた埃を払った。イシェは眉間にしわを寄せ、ラーンの後ろから彼を睨みつけるようにして遺跡の入り口を見つめた。「またか、ラーン。あの洞窟は以前にも探検しただろう。何も見つからなかったはずだ。」
「だが今回は違うって!ほら、この石畳の模様、よく見ると何か記号みたいに見えるだろ?きっと何か隠された部屋があるに違いない!」ラーンの目は輝き、興奮を抑えきれずにいた。「それに、あの洞窟の奥には奇妙な音が聞こえてくるんだ。きっと貴重な遺物が見つかるはずだ!」
イシェはため息をついた。ラーンの無謀さに慣れているとはいえ、この遺跡は以前にも何日も費やして探検した場所だった。何も見つからなかったことは、イシェ自身も記憶していた。だが、ラーンの熱意に押され、結局は仕方なく彼の後をついていくことになった。
テルヘルは洞窟の入り口で腕を組んで、二人のやり取りを冷ややかに見ていた。彼女はヴォルダンへの復讐心から、遺跡探索という危険な仕事を選んだが、この二人は自分にとってあくまで利用価値のある道具に過ぎなかった。ラーンの熱意とイシェの冷静さは、ある意味では便利だった。
「よし、準備はいいか?」ラーンが剣を構え、イシェも小さな匕首を手に取った。テルヘルは小さく頷き、三人は洞窟へと足を踏み入れた。
洞窟内は薄暗く、湿った冷たい風が吹き込んでくる。ラーンの希望に反して、何も見つからないまま、彼らは奥深くへと進んでいった。イシェは背筋がゾッとするような感覚を覚えた。この洞窟には何か嫌な予感がした。
「ほら、あれだ!」ラーンが突然叫んだ。彼の指さす方向には、壁に埋め込まれた小さな石箱があった。イシェもその石箱に目を向け、わずかな期待を抱いた。しかし、石箱を開けると、そこには何も入っていなかった。空っぽだった。
「嘘…?」ラーンの顔色が変わった。「なぜ…何もない…」
「無駄だ、ラーン。」テルヘルは冷静な声で言った。「この遺跡には何もない。ここを出て、次の場所に移動しよう。」
イシェはラーンの肩に触れ、彼を落ち着かせようと努めた。しかし、ラーンの目は空っぽの石箱を見つめ続けていた。彼の顔には、失望だけでなく、どこか虚ろな表情が浮かんでいた。イシェは、この遺跡探索がラーンにとって、単なる冒険ではなく、自分自身への証明のようなものだったことを改めて認識した。そして、その証明が失敗に終わったことに、ラーンの心には深い傷が残ったのではないかと思った。
テルヘルは三人の様子を冷酷に見つめた。彼らの感情や葛藤など、彼女には関係なかった。彼女は目的のためだけに、この遺跡探索を続けているだけだった。しかし、イシェはどこかで、ラーンの冷遇されたような表情に心を痛める自分に気づき始めていた。