ビレーの朝の冷気が骨まで染み渡るように冷たい。ラーンが火を起こそうとするも、凍え切った指が思うように動かない。イシェは薄暗い顔で、小さな火の粉を吹き消しながら「今日は遺跡探検はやめよう」と提案した。「そんな軟弱なことを言うな。大穴を見つけるのは今日かもしれないぞ!」ラーンの言葉はいつも通り豪快だが、声に少しだけ力強さが欠けていた。
テルヘルは静かに二人を観察していた。彼女の手の甲には凍傷の跡が薄く残っていた。ヴォルダンとの戦いで奪われたものは、肉体的な痛みだけでなく、深い心の寒さだった。それは、どんな炎にも打ち勝つような冷たさだ。
「いいだろう」とテルヘルは言った。「今日は街で情報収集をする。新しい遺跡の情報が入ったかもしれない」。ラーンの顔色が少し明るくなった。イシェは諦めたようにため息をついた。
三人はビレーの冷たい石畳を歩き始めた。空には薄っすらと雪雲が立ち込めており、遠くの山々は白く輝いていた。街の市場では活気があったが、どこか冷え切った雰囲気が漂っていた。まるで、この街全体に影が落とされているようだった。
テルヘルは情報屋から噂話を聞き出した。ヴォルダンとの国境付近で新たな遺跡が見つかったらしい。しかし、そこは危険な場所であり、多くの探検隊がすでに命を落としているという。
「行く価値はあるぞ」とラーンは目を輝かせた。「大穴ならあの辺りにあるかも分からん!」イシェはラーンの無謀さに呆れたように言った。「そんな危険な場所に行くなんて、自殺行為だ」。
テルヘルは二人を見つめた。彼女には、この遺跡がヴォルダンとの戦いに繋がる鍵になるという確信があった。そして、その冷酷な現実を突きつけるためにも、この危険に立ち向かう必要があった。
「準備はいいか?」とテルヘルは尋ねた。ラーンは笑顔で頷き、イシェは渋い顔で頷いた。三人は再び冷たい風に吹かれながら、雪雲が覆う遠方へと歩き始めた。