凍てつく風を切り裂くように、ラーンが遺跡の入り口に立っていた。石造りの門には苔が生え茂り、まるで巨大な歯をむき出しにした亡霊のようだった。イシェは背後から彼の手を引っ張り、「また急いでいるのか？ 計画性がないのはいつも通りだ」と冷たく言った。ラーンの肩が軽く震えた。彼はイシェの冷たい視線を背に、遺跡へと足を踏み入れた。
内部は薄暗い。わずかに差し込む光で、埃舞う空気が鈍い青色に見えていた。ラーンは懐中電灯を点けたが、その光は狭い通路を照らすだけで、奥には深い闇が広がっていた。イシェの足音だけが響き渡り、それはまるで冷たい石の上を這う蛇のようだった。
「ここからは俺たちが案内する」とテルヘルが言った。彼女の表情は硬く、目元には深い影ができていた。ラーンの背筋がぞっとした。彼女はヴォルダンへの復讐を誓い、そのために手段を選ばないという噂を聞いたことがある。彼らにとって、遺跡探索は単なる冒険ではない。
彼らは奥へと進み、冷たい石壁に沿って進んでいった。通路は次第に狭くなり、天井からは鋭い岩が突き出ているように見えた。ラーンの心拍数が上がり始めた。イシェの足音も小さくなり、静寂の中で彼らの呼吸だけが聞こえるようになった。
突然、テルヘルが立ち止まった。「ここだ」と彼女は言った。彼女の指先が石壁をなぞり、そこに刻まれた奇妙な模様を示した。それはまるで呪文のように見える複雑な記号だった。ラーンの視界はぼやけてきた。冷たい空気が彼の肺に染み込み、息苦しさを感じた。
「これは何だ？」イシェが尋ねた。テルヘルは何も答えず、ただ石壁の模様をじっと見つめていた。その目は氷のように冷たかった。ラーンは自分が何か恐ろしいものに立ち向かっているような気がした。