ラーンの鼻息が白く立ち上る。冷たい風がビレーの街を吹き抜けていく。イシェが肩をすくめながら、薄汚れた地図を広げた。「今日はあの遺跡だ。テルヘルが言うには、地下深くにあるらしい」
「よし、行ってみるか！」ラーンは拳を握りしめた。イシェは眉間に皺を寄せた。「でも、あの遺跡は危険だって聞いたことがあるよ。特に最近、冷え込みが厳しくて…」
「大丈夫だ、俺が守るからな！」ラーンの豪快な声は、冷たい風に呑み込まれていった。テルヘルは鋭い視線で二人を見据えた。「時間を無駄にするな。あの遺跡には、我々の未来を握る鍵がある」
三人は、凍てつく地を進む。ビレーの街灯の光が遠ざかり、周囲は深い闇に包まれた。イシェは背筋がぞっとするような寒気に襲われた。
遺跡の入り口は崩れ落ち、石畳は苔むして滑りやすかった。ラーンが先頭に立って、重い鉄扉を開けた。中は薄暗く、埃っぽい空気が立ち込めていて、冷え切った風が吹き抜けてきた。イシェは背筋を丸めて、震える手をこすり合わせた。
「ここからは俺たちが案内する」テルヘルが言った。彼女の目は冷たい炎のように燃えていた。「遺跡には罠があるかもしれない。慎重に進むんだ」
彼らは暗い通路を進んでいった。壁には奇妙な模様が刻まれ、天井からは鍾乳石が垂れ下がっていた。一歩一歩が重く、冷たさが骨まで染みるようだった。
「何か聞こえたか？」イシェは静かに耳を澄ました。かすかな音が聞こえた気がした。まるで、誰かが泣いているような声だ。ラーンは眉をひそめた。「気のせいだな」
しかし、その瞬間、床が崩れ、ラーンが下に落ちていった。イシェとテルヘルは驚いて駆け寄った。
「ラーン！」イシェの声が洞窟にこだました。
深い闇の中にラーンの姿が見えた。彼は必死に這い上がり、血を流した額で顔をしかめていた。「大丈夫だ…俺はまだ…」彼の声はかすれた。
その時、遺跡の奥から、不気味な笑い声が聞こえてきた。
イシェは背筋が凍りついた。冷え込みがさらに厳しくなり、彼らの周りを包み込んだ。何か恐ろしいものが、彼らを待ち受けているようだった。