冷たい風だけがビレーの街を吹き抜ける朝だった。ラーンはイシェがいつものように眉間にしわを寄せて遺跡の地図を広げているのを、少し横目で見ていた。
「今日はあの西にある洞窟だな。危険度ランクはCだってな」
イシェの言葉にラーンはうなずいた。「そうだな。テルヘルも Cランクなら納得するだろう」
テルヘルが用意した地図には、遺跡の危険度を示すランクが記されていた。AからDまであり、Cランクは一般的に危険度は低いが、油断できないレベルだった。
「でもな、イシェ。最近寒いんだよな。こんな冷え込むと遺跡探しも疲れるし」
ラーンはそう言うと肩をすくめた。イシェは少しだけ顔を上げた。
「いつもより気温が低いのは確かだ。だが、それが理由で遺跡探索をやめるわけにはいかないだろう。テルヘルに約束したのだし」
イシェは地図をしまい、立ち上がった。「準備はいいか?今日は早く出発しよう」
ラーンの顔は曇ったままだった。冷え込む朝と、重い足取り。ラーンはいつも通りの冒険の始まりを少しだけ憂鬱に感じていた。