「おい、イシェ、どうだ？今日は何かいいものが見つかる気がするぜ！」ラーンが目を輝かせながら、遺跡の入り口に足を踏み入れた。イシェはいつものように眉間に皺を寄せ、背後から続いた。「またそんな無茶なことを言うんだね。ラーン、この遺跡は危険だって何度も言ってるじゃないか。」
「大丈夫、大丈夫！俺が守ってやる！」ラーンは胸を叩き、陽気に笑った。イシェはため息をつきながら、彼を見つめた。「あなたはいつもそう言うわ。でも、今回は本当に気を付けてね。」
遺跡内は薄暗く、湿った空気が漂っていた。足元には崩れかけの石畳が広がっていて、壁には謎の文字が刻まれていた。ラーンは興味津々で壁を撫でながら進んでいくが、イシェは慎重に足取りを確かめながら、後ろからついて行く。
その時、突然、床が崩れ落ちた。ラーンの足が宙に浮き、彼は驚愕の声を上げた。「わああ！」イシェは咄嗟にラーンの手を掴み、彼を引っ張り上げた。「危なかったわ！気を付けてよ、ラーン！」
「すまん、すまん！あの、でも何か見つけたみたいだぞ。」ラーンは崩れた床の下を指差した。そこには、朽ちかけた木箱が置かれていた。イシェは慎重に箱を運び出し、開けてみた。中には、金貨と宝石がぎっしり詰まっていた。「これは…！」イシェは驚きを隠せない。
「やった！大穴だ！」ラーンは大喜びで叫んだ。しかし、その瞬間、後ろから声が響いた。「待て！」
振り返ると、テルヘルが剣を抜き、彼らに向かって立ちはだかっていた。彼女の顔には怒りと憎しみが渦巻いていた。「あの宝は私のものだ！」
「何だって？なんで？」ラーンは困惑した表情で尋ねた。「お前が何者だ？」
「私はヴォルダンから全てを奪われた者だ！」テルヘルは激しく叫んだ。
「ヴォルダン…？」イシェは聞き覚えのある名前を呟いた。それは、かつてこの国を恐怖に陥れた巨大な組織の名前だった。彼らは容赦なく人々を虐待し、財産を略取したと言われている。
「あの宝は、ヴォルダンが私から奪ったものだ。お前たちには関係ない！」テルヘルは剣を振り上げると、ラーンとイシェに襲いかかった。「あの宝で、私は復讐を果たす！」
ラーンとイシェは、突然の襲撃に驚きながらも、反撃に出た。しかし、テルヘルの技は精妙で、彼らを圧倒していた。
「待て！テルヘル、なぜこんなことをするんだ？」イシェは必死に訴えた。「あの宝を奪うことで本当に復讐が成し遂げられるのか？」
「黙れ！」テルヘルは怒りを露わにし、イシェに剣を突き付けた。その時、ラーンはテルヘルの背後から近づき、一撃を放った。剣はテルヘルの肩に深く刺さった。「ぐっ…」テルヘルはよろめき、剣を落とす。
「逃げろ、イシェ！」ラーンは叫びながら、テルヘルに飛びかかった。イシェは一瞬ためらったが、すぐにラーンの後を追いかけた。
二人は遺跡から脱出し、安全な場所まで逃げ込んだ。息が切れるほど走り続け、ようやく立ち止まった時、イシェはラーンに尋ねた。「あの宝はどうするんだ？テルヘルの復讐心は…」
ラーンは深くため息をつき、言った。「あの宝は、ヴォルダンが奪ったものなら、本来の持ち主に戻すべきだ。テルヘルを信じるべきかどうかはわからないが、彼女の言っていることは真実かもしれない。」
イシェはラーンの言葉に深く頷いた。彼らは遺跡から逃げる途中で、テルヘルの言葉に突き動かされた真実を知る。ヴォルダンが築き上げた帝国は、多くの罪で汚染されていた。そして、テルヘルは単なる復讐者ではなく、その帝国の犠牲者であった。
イシェはラーンの肩を叩き、言った。「よし、次はどうするんだ？あの宝の持ち主を見つけ出すために、一緒に旅に出よう。」
ラーンは笑顔を見せながら、頷いた。「ああ、そうだ。そして、テルヘルの真実も明らかにしよう。」