ビレーの酒場「錆びた剣」はいつもより騒がしかった。次期執政官選挙を巡る議論が白熱していたのだ。ラーンはイシェとテーブルの隅で、賑やかな喧騒を避けていた。
「まったく、あの連中はいつになったら落ち着くんだ。」
イシェは眉間にしわを寄せながら酒を一口飲んだ。ラーンの視線を感じるとため息をついた。
「気にしない方がいいよ、ラーン。そんな政治の話は俺たちには関係ない。明日から遺跡探検だぞ。忘れちゃいないだろう？」
ラーンの顔は少し明るくなった。「ああ、もちろん。あの遺跡の奥深くに眠っているはずの宝を想像するだけでワクワクするぜ。」
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。黒く光沢のある髪を後ろでまとめ、鋭い眼光で客席を一周させた。彼女はラーンとイシェのテーブルに歩み寄り、椅子を引いて着席した。
「準備はいいか？」
テルヘルの声は冷たく、力強かった。「あの写し絵にあるように、今回は慎重に進めなければならない。」
イシェが写し絵を指さしながら尋ねた。「この記号は何の意味だ？一体何を探しているんだ？」
テルヘルは少しだけ唇を動かした。「それはまだ言えない。だが、あの遺跡にはヴォルダンが隠しているものがある。それを手に入れるために我々は協力するのだ。」
ラーンは興奮気味にテーブルを叩いた。「よし、わかった！ヴォルダンに復讐するなんて大義名分もあればこりないぜ！」
イシェはテルヘルと目を合わせ、「本当に大丈夫なのか？」と問いかけた。しかし、テルヘルの瞳からは揺るぎない決意が読み取れた。
「さあ、行くぞ。」
テルヘルは立ち上がり、ラーンとイシェに促した。ビレーの喧騒を背中に、彼らは遺跡へと向かった。