「よし、行こう!今日は絶対何か見つかるぞ!」
ラーンの豪快な声がビレーの朝の静けさを打ち破った。イシェはいつものようにため息をつきながら、ラーンが放つ熱気に巻き込まれるように彼の後を続けた。
「本当にここが最後でいいのか?」
イシェの声に、ラーンは振り返り笑顔を見せた。
「ああ、テルヘルが言うにはこの遺跡には、まだ誰も見つけられていない大規模な部屋があるらしいんだ!」
テルヘルが口にした情報。それはいつも曖昧で、信憑性に欠けるように思えた。しかし、その言葉の裏に隠された何かを感じ取るものがあったため、イシェはいつも疑いながらもラーンの背中についていくしかなかった。
遺跡の入り口に差し掛かるにつれて、イシェは不吉な予感を覚えた。いつものように、周囲を警戒しながら進むラーンとは対照的に、イシェは静かに周囲の状況を観察した。彼の鋭い感覚は、何かがおかしいことを告げていた。
「待て!」
イシェの声にラーンが振り返ると、その瞬間、背後から襲いかかってくる影に気づいた。ラーンは慌てて剣を抜き、影をかわすように攻撃したが、その攻撃は虚しく空を切った。影はまるで霧のように消えていった。
「何だこれは…」
ラーンの顔色は蒼白になった。イシェも同様に緊張感を募らせていた。テルヘルはどこにいるのか。
その時、遠くから、かすれた声が聞こえてきた。それは、明らかにテルヘルの声だった。
「あの遺跡は罠だ!すぐに逃げろ!」
その瞬間、遺跡の入り口付近から、何者かが巨大な石版を転がし始めた。石版は勢いよく進み、ラーンとイシェを押しつぶすように迫ってきた。
イシェは一瞬ためらったが、ラーンの顔を見て、立ち尽くすわけにはいかないと思った。彼は力を振り絞り、ラーンの腕をつかみ引きずり出した。二人はギリギリのところで石版の直撃を免れた。しかし、遺跡の出口はすでに崩れ落ちており、脱出ルートは断たれていた。
「テルヘル…」
イシェは、自分の行動を振り返った。なぜ、いつもテルヘルの言うままに動いてしまうのか。なぜ、彼女を信用してしまうのか。
そして、彼はついに決意した。この状況から抜け出すためには、テルヘルを信じ続けるのではなく、自分で考えなければならない。自分たち自身で未来を切り開く道を見つけなければならないのだ。
イシェはラーンの目に真剣な表情で語りかけた。
「ラーン、僕たちはもう逃げるわけにはいかない。ここは罠だ。そして、テルヘルにも何か企みがある。僕たちは彼女を信じるべきではない。」
ラーンの表情は驚きと戸惑いでいっぱいだった。しかし、イシェの言葉に彼の心は揺さぶられた。今まで、ラーンは自分の人生を「大穴」という夢だけで生きてきた。しかし、イシェの言葉は彼に、真実を見つめ直す必要性を突きつけたのだ。
二人は互いに視線を交わし、小さく頷いた。彼らはもう、テルヘルの駒ではない。自分たちの力で未来を切り開く決意を固めたのだ。