ラーンの大剣が遺跡の奥深くへと轟く音を立てて石壁に突き刺さった。埃が舞う中、イシェは眉間に皺を寄せながら、薄暗い通路を照らすランプを調整した。「また無駄な抵抗だな」と呟き、テルヘルは鋭い目で周囲を警戒していた。
「よし、これで道が開けたぞ！」ラーンは得意げに剣を抜いてみせたが、イシェは彼の無謀さにため息をついた。遺跡の奥深くへと続くこの通路は、彼らが過去数週間かけて探してきた迷宮のような場所だった。テルヘルが提供した情報によると、ここにはヴォルダンが隠しているという貴重な遺物があるらしい。
「本当にここにあるのか？ この遺跡はすでに何時間も探索してるぞ」イシェは不機嫌そうに言った。「それに、この道はまるで罠が仕掛けられているようだ」
だがラーンの耳には届いていなかった。彼は興奮気味に、通路の奥へと足を踏み入れた。テルヘルもまた、彼をじっと見つめていた。彼女の目は冷酷で、何かを知っているかのように輝いていた。
「待て！」イシェはラーンを止めようとしたが、もう遅かった。床から突如巨大な石柱が伸び上がり、ラーンを押しつぶそうとした。その時、影が彼に覆いかぶさった。テルヘルが素早く飛び込み、自身の体でラーンをかばったのだ。
「何をしているんだ！」イシェは驚いて声を上げた。
しかし、テルヘルの目はラーンの顔ではなく、通路の奥へと向けられていた。そこには、かつてヴォルダンと対峙していた頃の彼女の姿が重なり合った。あの時の憎しみ、悲しみ、そして復讐への渇望。全てが鮮やかに蘇ってきた。
「この遺跡には、私が求めるものがある」テルヘルは冷たい声で言った。「そして、私はそれを手に入れるために何だってする」
ラーンは立ち上がり、イシェの手を握りしめた。彼はまだ状況を理解できていなかったが、テルヘルの言葉から何か不吉なものを感じていた。
その時、通路の奥から、かすかな光が差し込んできた。それはまるで、遠い場所で燃え盛る炎のように輝いていた。そして、その光の中に、見覚えのある影が浮かび上がってきた。
「あの…」イシェは言葉を失った。ラーンも言葉を失い、ただその影を見つめていた。それは、彼らが幼い頃に、一緒に冒険を誓い合った仲間の姿だった。
「まさか…」ラーンの声は震えていた。
影から、ゆっくりと顔が顔を現した。それは、かつての彼らの仲間であり、今はヴォルダンに囚われの身となっているはずの人物だった。そして、彼の目には、深い悲しみと憎しみが宿っていた。
「なぜ…？」イシェの声が震えた。
その瞬間、遺跡全体が激しく揺れ始めた。通路から崩落が始まり、彼らの前に立ちふさがる巨大な石柱が再び動き出した。ラーンはイシェの腕を引き寄せた。
「逃げろ！」彼は叫んだ。
だが、彼らの後ろには、かつての仲間の姿があった。そして、彼の目には、復讐の炎が燃えていた。