ラーンがいつものように大げさな声で遺跡の話をしていた。イシェは溜息をつきながら、彼の話に耳を傾けていた。いつも通り、宝の山や古代の秘密など、現実離れした内容だった。しかし、イシェはラーンの瞳に映る情熱を見逃さなかった。それは、単なる夢物語ではなく、彼の人生そのものだった。
「今度こそ、何か大物が見つかる気がするんだ!」
ラーンの言葉が響き渡るビレーの酒場には、いつもと違う空気が流れていた。次期執政官選挙を控え、街は政治的な緊張に包まれていた。自主独立派と恭順派の対立が激化し、人々の心は不安定になっていた。
イシェは、ラーンの無邪気な瞳とは対照的に、常に現実の影を感じていた。遺跡探しの報酬を貯めて、いつか安全な場所で暮らしたいという願い。それは、この街で生きる全ての人々が抱いている共通の夢だった。
「イシェ、どうしたんだ?顔色が悪いぞ」
ラーンの声に引き戻されたイシェは、小さく頷きながら、いつものように彼の話を聞いていた。しかし、彼女の心は、ビレーの喧騒よりも遥か遠くにある静かな場所に目を向けていた。
その夜、イシェは眠れずに、窓の外を眺めていた。街の灯りがぼんやりと揺らめいている。遠くで犬が吠える音がかすかに聞こえた。
「本当に、大穴が見つかるのかな…」
イシェは呟いた。ラーンの言葉に嘘はなかった。遺跡には確かに価値あるものがある。しかし、それは同時に危険なものだった。
イシェは、自分たちの未来について、そしてこの街の運命について考え続けた。彼女自身も、この街で生きていくために、何か選択をしなければならなくなる日が来るだろう。
その時、ラーンの言葉が再び彼女の心に響いた。
「いつか、俺たちはこの街を出て、新しい世界へ行くんだ!」