ビレーの喧騒を背に、ラーンとイシェはテルヘルの指示に従い、荒れ果てた遺跡へと足を踏み入れた。日が沈み始め、薄暗い空の下、朽ちかけた石造りの壁が不気味な影を落とす。
「ここだな」
テルヘルは、ひび割れた石板に指差した。イシェは懐中電灯の光を当てて確認する。そこに刻まれた記号は、彼女が見聞きした記録と一致していた。
「この遺跡には、ヴォルダンが欲しがるものがあるらしい。古代文明が残した、強力な武器だ」
テルヘルはそう告げると、ラーンに剣を向け、「お前たちには、あの武器を手に入れるための力を示して欲しい。ヴォルダンを倒すために」と目を燃やした。ラーンの表情は曇り、イシェは不安そうに周囲を見回した。
遺跡の奥深くへと進むにつれ、不気味な静寂が彼らを包み込んだ。石畳の上には、何かの生き物が這い回った跡が残っていた。
「ここには何かいる」
イシェが呟くと、突然、壁から奇妙な音が響き渡り、石塵が舞い上がった。目の前には、巨大な虫のような姿をした怪物が現れた。その目は赤く光り、鋭い牙を剥き出しにして彼らに襲いかかってきた。
ラーンは剣を構えて立ち向かう。イシェは素早く動き回り、怪物との距離を保つ。テルヘルは呪文を唱え、闇の中に光弾を放った。三人は息の合った連携で怪物と戦い始めたが、その数は絶えることなく、次々と現れる。
「これは…何かおかしい」
イシェは戦いを続けるうちに不安を募らせた。この遺跡には何か邪悪な力を感じたのだ。そして、その力に操られているかのような、空虚な瞳をした怪物たちの姿が、彼女の心をより深く蝕んでいった。
その時、ラーンの剣が怪物に刺さり、その体から黒い液体が流れ出した。その液体が地面に落ちると、凄まじい腐敗臭が漂い、近くの植物はみるみるうちに枯れ始めた。イシェは恐怖で息を呑んだ。
「これは…共食いの力か…」
テルヘルは呟きながら、怪物たちに囲まれながらも冷静さを保っていた。彼女の目には、復讐への執念だけでなく、何か別のものも宿っていた。それは、この遺跡の奥底に眠る真実への渇望だった。