ラーンの粗雑な剣が石版を粉砕する音だけが、埃っぽい遺跡の静寂を破った。イシェは眉間に皺を寄せながら、崩れかけた壁の隙間から覗き込んだ。「本当にここなのか？ そんなはずはないだろう」
「ほら、言ったろ？ 大穴が見つかるって！」ラーンは得意げに笑いかけたが、イシェは彼の瞳に映る希望の光に心を痛めた。この遺跡は、テルヘルが持ち出した古文書に記されていた場所だ。彼女はヴォルダンへの復讐に必要だと断言し、莫大な報酬を約束してラーンとイシェを雇ったのだ。しかし、イシェには何かが amiss であるという予感が拭えなかった。
「ここじゃ何もないわ」テルヘルは冷静に言った。「だが、この遺跡の構造を見る限り、何か隠されているはずだ」彼女は古文書を指さし、「ここに書かれた記号群は、ヴォルダン王家の紋章と酷似している。もしかしたら、この遺跡には王家の秘密が眠っているのかもしれない」
イシェはテルヘルの言葉に耳を傾けつつ、ラーンの様子を見つめた。彼は興奮して遺跡の壁を叩き、まるで宝探しをする子供のように喜んでいた。だが、彼の無邪気な笑顔は、イシェにはどこか不自然に映った。ラーンがテルヘルを信じているように見えたのだ。
「よし、もう少し探してみよう」ラーンは意気揚々と言った。「きっと何か見つかるぞ！」
イシェは深くため息をついた。彼女はラーンの無謀さに呆れながらも、彼とテルヘルの間に何かがあると感じていた。そして、その共謀が自分自身をも巻き込む危険な罠になるのではないかと恐れていた。