ビレーの広場にはいつもより人波が少なく、不気味な静けさが漂っていた。ラーンはイシェと並んで、その様子を訝しげに見つめていた。
「なんか変だな…。いつもならこんな時間には子供たちが走り回ってるはずなのに」
イシェも頷いた。「確かに。今日は何かあったのかな？」
二人がそう話していると、背後から声が聞こえた。「珍しいな、二人とも。今日は遺跡探索は休むつもりか？」
振り返ると、テルヘルが立っていた。黒曜石のように黒い瞳が、いつもより鋭く光っていた。
「テルヘルさん…何かあったんですか？」ラーンが尋ねた。
テルヘルは少しだけ唇を動かした。「大規模な公告が出されるらしい。今日は街中が騒ぎ立てているようだが…」
彼女は言葉を続ける前に、広場に張られた布地に目をやった。そこには、エンノル連合の紋章と、ヴォルダン国旗が描かれた告示が掲げられていた。
「ヴォルダンとの国境付近で遺跡の調査中に、大規模な魔物が出現したらしい」テルヘルの声が、いつもより低く響いた。「エンノル連合は全力を挙げて鎮圧するとしているが…」
ラーンの顔色が変わった。「そんな…そんな話、聞いたことないぞ！嘘だろう？」
イシェはラーンの手を軽く握りしめた。彼女の目は冷静に告示を眺めていた。
「嘘だとは限らないわ」テルヘルは静かに言った。「ヴォルダンとの国境付近では、以前から魔物が出現する噂があった。今回はそれが現実になっただけなのかもしれない」
ラーンは動揺した様子を見せながらも、すぐに立ち直った。「そんなことより…俺たちは遺跡探索を続けるぞ！大穴を掘り当てて、ヴォルダンなんかへばっ倒すんだ！」
イシェがラーンの肩に手を置いた。「落ち着いて。まずは公告の内容を確認し、状況を把握してから考えよう」
テルヘルは二人が言い争うのを静かに見守っていた。彼女の瞳には、どこか遠くを見つめるような光が宿っていた。
「この公告…きっと何か意味があるはずだ」彼女は呟いた。「そして、それは僕たちにも関係しているのかもしれない…」