ラーンの大声がビレーの朝の静けさを突き破った。「おい、イシェ!今日の目標はあの遺跡だ!」
イシェは寝起きでぼんやりとした顔で言った。「またあの危険な場所? ラーン、少しは現実を見てよ。あの遺跡は以前から調査済みだし、残されたものはほとんどないはずだ」
「そんなこと言わずに、ちょっとだけ探検してみようぜ!ほら、テルヘルさんもいるし」とラーンは言うが、イシェは彼の楽観主義にはいつも頭を抱えていた。
テルヘルは冷静な声で言った。「今日の目標は情報収集です。遺跡の構造や周辺の地形を把握することが重要です。特にヴォルダンとの国境付近にある公共施設の配置を確認する必要があります」
ラーンはテルヘルの言葉に耳を傾けながらも、遺跡の奥深くにあるという伝説の宝物を夢見ていた。イシェはそんな彼を見つめ、「また無駄な期待をするのか…」とため息をついた。
三人はビレーから少し離れた遺跡へと向かった。かつて栄華を極めた文明の名残が、崩れかけた石造りの壁や朽ち果てた柱に残っている。遺跡の中央には巨大な井戸があり、その周りには奇妙な模様が刻まれた石板が散らばっていた。
ラーンは興奮した様子で石板に触れた。「これは一体何だ? 何か秘密のメッセージが書かれているんじゃないか?」
イシェは慎重に石板を調べ、「ただの装飾品だろう。遺跡の構造から判断すると、ここには公共施設があった可能性が高い」と答えた。
テルヘルは井戸の奥底を覗き込んだ。「この井戸は深く掘られている。もしかしたら何かが隠されているかもしれない。」
三人は井戸の周りで調査を進めた。イシェは石板の配置から遺跡の構造を分析し、ラーンは井戸の奥底を照らすために火種を燃やした。テルヘルは古い地図を広げ、遺跡の位置と公共施設の配置を比較しながら何かを考え込んでいるようだった。
日が暮れ始め、三人は疲れた様子で遺跡を出た。成果はほとんど得られなかったが、イシェはテルヘルの冷静な判断とラーンの行動力に少しだけ安心感を覚えた。
「今日の調査結果は?」とラーンはテルヘルに尋ねた。
テルヘルは地図を片手に言った。「公共施設の配置は予想通りだった。遺跡の周辺にはかつて市場や宿泊所があったようだ。ヴォルダンとの国境付近にあるこの公共施設群は、重要な戦略的な拠点であった可能性が高い。」
イシェは少し驚いた。「公共施設が戦略的拠点になるなんて…」
「そう、そしてその拠点から情報収集を行うことで、ヴォルダンの動きを予測できるかもしれない」とテルヘルは言った。彼女の目は冷酷な光を帯びていた。
ラーンはテルヘルの言葉の意味を理解し、「つまり、この遺跡はヴォルダンとの戦いに役立つ情報源になるってことか?」
イシェはラーンを見つめ、「また無駄な期待をするのか…」とため息をついたが、今回は少しだけ違う感情が混ざっていた。