「よし、ここだな!」ラーンが興奮気味に叫んだ。目の前には崩れかけた石造りの門があり、その奥には薄暗い通路が見えた。イシェは眉間に皺を寄せた。「またそんな大げさな言い方をするな。あの遺跡は既に調査済みだぞ」
「いやいや、今回は違う!俺の直感だ!」ラーンは剣を抜きながら、意気揚々と門をくぐっていった。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を向けた。「どうするんですか?」テルヘルは静かに頷いた。「彼の言う通り、今回は様子が異なるようだ。警戒しながら進もう」
通路は湿気で冷たく、石畳には苔が生え始めている場所もあった。時折、天井から小さな石が落ちてくる音がした。イシェは緊張感に包まれていた。ラーンの直感は時として当たることもあったが、その一方で多くの危険な目に遭ってきたのも事実だった。
深く潜っていくにつれ、通路の壁には奇妙な模様が刻まれていた。イシェはそれらをじっと見つめた。「これは...何か呪文のようなものだ」テルヘルも顔色を変えた。「確かに、ヴォルダンで発見された古代遺跡にも似た文字があった。あの遺跡は後に全壊した…」
その時だった。突然、通路の奥から激しい衝撃が伝わってきた。ラーンが振り返り、「なんだ!?」と声を上げた瞬間、天井から大量の石が崩れ落ちた。イシェは咄嗟にラーンを引っ張り、テルヘルと共に避けようと試みた。しかし、間に合わなかった。
石塵が立ち込め、激しい音が響き渡る中、ラーンの叫び声がかすかに聞こえた。「イシェ…!」イシェは必死に視界を確保しようと手を伸ばしたが、何も見えなかった。そして、自分の体にも何か重いものがのしかかっていることに気がついた。意識が遠ざかっていく中で、最後の最後に見えたのは、崩れ落ちた天井から覗く青空だった。