蒸し暑い風がビレーの街を吹き抜ける。入梅と共に気温が上がり始め、日差しも容赦なく肌を焦がすようになってきた。ラーンは額の汗を拭いながら、イシェに言った。「今日はいい感じだぞ、イシェ!きっと何か見つかる!」
イシェはラーンの熱意に苦笑した。「ラーン、いつも同じこと言ってるわ。遺跡探しの成功率なんてそんなには高くないし、ましてや大穴なんて…」
「大丈夫、大丈夫!今回は違うって気がするんだ!」ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。だが、ラーンのその熱意に引っ張られるように、今日もまた遺跡へと足を踏み入れた。
テルヘルは二人の後ろを少し離れた位置で歩いていた。彼女は常に冷静沈着で、周囲を見渡しながら何かを探しているようだった。彼女の視線は遺跡の入り口だけでなく、ラーンとイシェの姿にも向けられており、その表情には読み解けないものが浮かんでいた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。石畳の上を歩くたびに埃が舞い上がり、二人の鼻腔を刺すような匂いがした。ラーンの足取りは軽いものの、イシェは慎重に一歩ずつ進んでいる。
「ここは以前にも来たことあるはずだけど…」イシェが呟くと、ラーンは振り返り、「ああ、そうだったな!あの時、あの石碑が見つかった場所か!」と興奮気味に言った。
イシェはラーンの言葉に少し安心した。ラーンは計画性がないとはいえ、遺跡に関する記憶力は抜群だった。
彼らは遺跡の奥へ進んでいく。壁には奇妙な模様が刻まれており、天井からは鍾乳石がぶら下がっている。入梅の影響か、遺跡内の湿度も高く、まるで生き物のように息苦しさを感じた。
その時、ラーンの足元から何かが光り始めた。彼は驚いて後ずさりし、イシェは素早く剣を抜いた。
「なんだこれは…!」ラーンの視線に、イシェもその光に気が付いた。それは小さな宝石箱だった。宝石箱には複雑な模様が施されており、その中心には鮮やかな赤い石が埋め込まれていた。
「これは…」テルヘルが近づき、宝石箱を慎重に手に取った。「これはヴォルダン王家に伝わるという伝説の『紅玉』ではないか…」
ラーンとイシェは目を丸くした。紅玉とは、ヴォルダン王家の象徴であり、その存在は伝説とされていた。まさかこんな遺跡で見つかるものだとは思ってもいなかった。
「これでヴォルダンへの復讐に一歩近づく…」テルヘルは紅玉を握りしめると、どこか遠くを見つめていた。彼女の瞳には、復讐の炎が燃え盛っていた。