ラーンの豪快な笑い声がビレーの狭い路地裏にこだました。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の手が触れたばかりの酒樽をじっと見つめていた。
「本当にこれでいいんだろ? テルヘルには高い報酬を約束したはずだろう?」
「大丈夫だ、イシェ。俺が掘り出した遺物があれば十分だ」
ラーンは豪快に笑いかけながら、酒樽から溢れ出した酒を口にした。イシェはため息をついた。彼とラーンの性格はまるで対極だった。ラーンは冒険心あふれる行動派で、危険な遺跡に飛び込むことを躊躇しない。一方、イシェは慎重で現実的な思考をする。ラーンが持ち前の楽観主義に振り回されることもしばしばだ。
しかし、二人は幼い頃から共に過ごし、互いに信頼し合っていた。ラーンの無謀な行動を止めるのも、イシェの役割だったのだ。
「でも、今回は違うぞ。テルヘルはヴォルダンへの復讐を果たすために遺跡を探しているんだ。俺たちは単なる道具に過ぎないかもしれない」
イシェの言葉に、ラーンの顔色が少し曇った。彼は自分の行動を振り返り、少しの間沈黙した。すると、彼はゆっくりと口を開いた。
「イシェ、お前はいつも俺のことを心配しすぎだ。俺はわかっているぞ。テルヘルの目的は復讐だ。でも、俺たちは彼女の手伝いをすることで、何かを得られるかもしれないじゃないか? 貴重な遺物や財宝だ。それに…」
ラーンの視線が遠くを見つめた。
「俺たちにも夢があるんだ。いつか大穴を掘り当てて、ビレーの人々に恩返ししたい。そのためには、テルヘルに協力する必要がある」
イシェはラーンの言葉に深く考え込んだ。ラーンの夢は確かに叶うかもしれない。しかし、そのために彼らを道具として利用しようとするテルヘルの野望を黙って見過ごすことができるのか。イシェは自分の胸の中で葛藤した。
その時、ビレーの鐘が夕暮れの合図を奏で始めた。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。明日の遺跡探検に向けて準備を始める時だ。イシェは自分自身を責めた。彼はラーンの夢に賛同しなければならないのか? それとも、テルヘルの野望を阻止するために立ち向かうべきなのか?
答えは見つからなかった。しかし、イシェは決意した。ラーンと共に遺跡探検を続けるだろう。そして、その中で自分の答えを見つけ出すのだ。