「おい、イシェ、今日は俺が先頭だぞ！」ラーンが目を輝かせ、遺跡の入口へ駆け込んだ。イシェはため息をつきながら後を続けた。いつも通り、ラーンの計画性なき行動に呆れているのだ。
「待て、ラーン！あの崩れた石柱は危ないだろう」イシェの声は届かなかった。ラーンは既に奥へと進んでいく。イシェは仕方なく彼を追いかける。
遺跡内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。壁には古びた絵画が描かれており、かつて栄えた文明の痕跡を感じさせる。
「よし、何か見つかったぞ！」ラーンの声が響いた。イシェが駆け寄ると、ラーンは興奮気味に小さな箱を掲げていた。
「何だ？宝石か何かか？」イシェは期待したように箱を開けようとしたが、ラーンはそれを制止する。「待てよ、開ける前にテルヘルに見せろ」
テルヘルは遺跡の外で警戒を怠らぬ。彼女は冷静沈着で、常に周囲を見渡している。ラーンの無謀な行動に呆れ顔を見せることも多いが、彼には何か特別な魅力を感じているようだ。
「先生、これは…」ラーンが箱を開ける前にテルヘルが言った。「開けずに持ち帰るべきだ」
「え？なんで？」ラーンの顔色が曇った。
テルヘルは深い目を細めた。「この遺跡には危険が潜んでいる。あの絵画をよく見てみろ」
イシェが壁の絵画を注意深く観察すると、そこに描かれていたのは、箱を開けた人々が謎の光に包まれ、消滅していく様子だった。
「これは…」イシェは言葉を失った。
テルヘルは言った。「この遺跡は、かつて強力な魔法使いが封印した場所だ。その魔法使いの魂がまだここに残っており、この箱を開けると、その魂が解放されてしまう危険がある」
ラーンの顔は真っ白になった。「じゃ、どうしよう…」
「箱をそのままにしておくのが最善だ。先生に相談する必要がある」テルヘルはそう言うと、遺跡の外へ出て行った。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは、自分たちがどれほどの危険な場所に踏み込んできたのかを初めて認識したのだ。