ラーンが石を蹴飛ばすと、イシェの眉間に皺が寄った。「また遺跡の話か?」
「いや、お前も分かってるだろ?俺たちはビレーで暮らすにはお金が必要なんだ。遺跡から大金持ちになるのが一番速いって話だ」ラーンはそう言うと、イシェに背を向けて、夕焼けに染まる街並みを眺めた。「いつかあの塔みたいな遺跡に潜ったら、きっと大穴があるはずだ!」
「そんな夢を見るなよ。現実を見ろ。ビレーの遺跡なんて、誰もが探しているんだ。俺たちはただの小さな魚だ」イシェは冷静に言ったが、ラーンの瞳には揺るがない熱意が宿っていた。
その時、背後から声が聞こえた。「二人とも元気そうで何よりだ」
振り返ると、黒曜石のような瞳を持つテルヘルが立っていた。彼女の鋭い視線は、まるで二人の未来を透かしているようだった。
「今日は新しい遺跡の情報が入ったんだ。ヴォルダンとの国境に近い場所らしい」テルヘルはそう言うと、ラーンとイシェを見据えた。「報酬も以前より増やす。今回は特別だ。成功すれば、お前たちの夢も叶うかもしれない」
ラーンの顔から笑顔が溢れた。「よし!行こうぜ、イシェ!」彼は興奮気味に言ったが、イシェはテルヘルの瞳を見て、何かを悟ったような表情をした。
「準備はいいか?危険な場所だぞ」テルヘルは冷めた声で言った。「あの遺跡には、ヴォルダンが隠す秘密が眠っているらしい。そして、かつての私の過去も…」
ラーンとイシェは何も言わずに頷いた。彼らはテルヘルの言葉を理解していた。危険と引き換えに、彼女が求めるもの、そして、自分たちの夢を叶えるために、あの遺跡に挑まなければならないのだ。
夕暮れの街を後にする三人の影は、希望と不安、そして過去の亡霊を背負って、闇へと消えていった。