ラーンが石ころを蹴飛ばすと、それはかすかな音を立てて、埃っぽい路地に消えた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の後ろから続いた。「また無駄なことをしたじゃないか。」
「何だよ、イシェ。たまには息抜きが必要だろ」ラーンは陽気に笑ったが、イシェの鋭い視線を感じて肩をすくめた。ビレーの街はずれで、彼らの拠点となっている掘っ立て小屋は、いつもより静かで不気味に思えた。「何か変だな…」
「そうだな」テルヘルが口を開いた。「ここ数日、何かがおかしい。空気が重苦しい。まるで何かが起きる予感がある」彼女は鋭い目を街の方に向けている。「ヴォルダンとの国境付近で、奇妙な動きがあるらしいぞ。噂によると、かつての遺跡が再び活性化し始めたという話だ」
ラーンの顔色が変わった。「まさか…あの遺跡か?」彼は口を閉じたまま、イシェに視線を向けた。イシェはゆっくりと頷いた。「あの遺跡には、強力な力があると伝えられている。そして…」彼女は言葉を濁した。「あの遺跡に眠るものは、ヴォルダンにとって大きな脅威になる可能性もある」
「脅威か…」ラーンの瞳に強い光が宿った。「もしそうなら、我々がやらなければならないことがある」彼の言葉は決意に満ちていた。イシェは彼の手を握りしめると、テルヘルの冷酷な笑みに応えた。三人は互いに言葉を交わさずに、遺跡へと向かうことを決心した。
その夜、ビレーの空には不気味な雲が渦巻いていた。まるで、世界が巨大な鍋にかけられたかのように、空気が熱く重苦しくなった。街の灯りは揺らぎ、影が不自然に伸びていた。そして、遠くから聞こえてくる、かすかな獣の咆哮のような音は、この街の人々に不安を掻き立てるものだった。
「兆し…始まったのか…」テルヘルは呟くと、三人は遺跡へと続く闇の中に消えていった。