「おい、イシェ、見てみろ！これは何だ？」ラーンが興奮気味に、埃まみれの石の破片をイシェに見せた。
イシェは眉間にしわを寄せて、石片を慎重に観察した。「よく分からない…。何か文様があるようだが、ほとんど劣化して読めない」
「でも、明らかに人工物だろ？遺跡に埋まっているんだぞ！もしかしたら大穴への手がかりかもしれない！」ラーンの目は輝いていた。イシェはため息をつきながら言った。「大穴なんて、ただの迷信じゃないのかい？」
その時、後ろから声がした。「夢を諦めるな、若者たちよ。大穴は確かに存在するのだ」それはテルヘルだった。彼女の手には、古い羊皮紙の地図が広げられていた。「この地図が示す場所には、かつて古代文明が残した巨大な遺跡があると伝えられている。そこには、あらゆる知識と財宝が眠っているという…」
ラーンの瞳がさらに輝きを増し、イシェはテルヘルの言葉をじっと見つめていた。彼女は自分の過去を思い出すたびに、胸に熱い怒りが込み上げてくるのだ。「ヴォルダン…あの国が全てを奪った…だが、必ず復讐を果たす」
イシェはテルヘルの真意を見抜いていた。彼女にとって遺跡探索は単なる冒険ではなく、復讐を果たすための手段に過ぎなかった。そして、ラーンと自分自身もその計画の一部に巻き込まれているのだ。
「よし、行こう！大穴を探しに行こう！」ラーンの声は力強く、イシェも彼の手を握りしめ、深く頷いた。三人は地図を頼りに、未知なる遺跡へと足を踏み入れた。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、ヴォルダンとの因縁と、古代文明の謎だけではない。
イシェは、かつて兄が語っていた言葉が頭をよぎった。「真実とは、常に甘美なものではない…」彼女は兄の姿を思い出しながら、自分の決断に不安を感じ始めた。