ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯の酒を飲み干す姿も、どこか虚しげに見えた。イシェは彼の様子を伺いながら、静かに酒を一口口に含んだ。「何かあったのか？」と尋ねると、ラーンは小さくため息をついた。「また遺跡で空振りだったんだ。あの宝探しの夢も、いつまで続くんだろう…」
イシェはラーンの肩を優しく叩き、「そんなこと言わないで。いつか必ず見つかるよ」と励ますが、自分自身も内心不安を感じていた。最近、ラーンの無計画な行動にイライラする日が増えてきたのだ。彼の豪快さに惹かれた当初とは違い、現実的なイシェは、ビレーでの穏やかな暮らしを諦められない自分がいることに気づき始めていた。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。「今日は収穫があったようだ」と告げると、テーブルの上に小さな箱を置いた。中には、遺跡から持ち帰ったという奇妙な石が輝いていた。ラーンは目を輝かせ、「これでまた酒が飲めるぞ！」と叫んだが、イシェは石の持つ不思議な力を感じ取っていた。
テルヘルは「この石には、かつて存在した文明の秘密が秘められているかもしれない」と言い、ラーンの無謀な行動を戒めるように言った。「君たちはまだ、その儚さに気づいていないようだ…」
イシェはテルヘルの言葉に考えさせられた。遺跡探索の目的は何なのか。本当に財宝を求めているのか。それとも、どこかで失いゆく儚さを追いかけているだけなのか。ビレーの街の灯りを見つめながら、イシェは自分の心に問いかけた。