ラーンの大笑い声が、埃っぽい遺跡の通路にこだました。イシェは眉間にしわを寄せていた。「また、そんな大げさな話をするな。あの石碑には何も書いてないだろう。」
「いやいや、イシェ。よく見ろよ。ここに奇妙な模様があるだろ？これは古代文明の暗号に違いない！」ラーンは興奮気味に石碑を指さした。イシェはため息をつきながら近づくと、確かにそこに歪んだ線刻が施されていることに気づいた。しかし、ただの自然の風化だと思われた。
「古代文明の暗号だと？またそんな夢物語を…」
その時、背後から冷たい声が響いた。「何をしている？」テルヘルが鋭い眼差しで二人を見下ろしていた。イシェは慌ててラーンを制止した。「何も、ただの休憩です。」
テルヘルの視線は石碑に移った。「確かに興味深い模様だ。しかし、この遺跡には危険な罠が多い。無駄な時間を過ごしている余裕はない」彼女は冷たく言った。「準備が整ったら、奥へ進むぞ」
彼らはテルヘルの指示に従い、遺跡の奥へと足を踏み入れた。暗い通路を進むにつれ、空気が重くなり、不気味な静けさに包まれた。ラーンの陽気さは影を潜め、イシェは緊張で額に汗が浮かんでいた。
突然、床が崩れ、ラーンが深い穴に転落した。イシェとテルヘルは驚いて駆け寄ると、ラーンは痛そうにうめいていた。足が挟まっているようだった。「大丈夫か？」イシェが声をかけた。
「うっ…大丈夫だ。ただ、足が…」ラーンの顔色は青ざめていた。
テルヘルは冷静に状況を判断した。「イシェ、お前がラーンの足を固定する。私は周囲を確認する」彼女は素早く動き、周囲の壁に目をやった。すると、壁には鋭利な石刃が突き出ていることに気づいた。まるで、誰かが意図的に設置したように。
「罠だ…」テルヘルは呟いた。「この遺跡は安全ではない。ラーンを助け出すためには、慎重に進まなければならない」彼女はイシェに指示を出した。「急いで、近くの村へ伝令を送るんだ。医療の専門家が必要だ」
イシェは頷き、ラーンの足元を支えながら、出口へと走り出した。テルヘルは一人残った。彼女はラーンを見つめ、静かに呟いた。「こんな危険な場所を…なぜ？」
ラーンの視線は痛みに歪んでいて、答えはなかった。しかし、テルヘルは彼の瞳に、深い傷と、まだ消えない希望の光を見た。 そして、彼女は決意した。彼らをこの遺跡から必ず生還させるために、どんな犠牲も払う覚悟だった。