「よし、今回はあの崩れかけた塔の奥だな。イシェ、地図を確認してくれ」ラーンが豪快に笑う。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「また、そんな危険な場所?本当に大穴が見つかるのかしら…」
「見つかるに決まってるだろう!ほら、あの伝説の宝剣だって、この塔の奥深くに眠っていると噂されてないか!」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。ラーンはいつもそうだった。夢を語り、危険を冒す。そして、イシェはその尻拭いをしていたのだ。
「いい加減にしろよ、ラーン。そんな宝剣なんて、ただの作り話だ」テルヘルが冷たく言った。「だが、その塔には確かに何かがある。私は確信している」彼女の目は鋭く光っていた。
テルヘルの目的は明確だった。ヴォルダンへの復讐。そしてそのために必要なものは、あの塔に眠るという古代の遺物だった。ラーンとイシェを雇ったのは、単なる肉体的な力が必要だったからではない。彼らの無邪気さと純粋さを利用できると思ったからだった。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。足元には崩れかかった石畳が広がり、天井からは滴り落ちる水音が不気味に響いていた。ラーンは軽快に石畳を駆け上がり、イシェは慎重に彼の後を追う。テルヘルは二人より少し遅れて、静かに周囲を観察していた。
「ここだ!」ラーンが興奮した声で叫んだ。崩れかけた壁の奥に、薄っすらと光るものがあった。それは古代の石棺だった。
「早く開けろ!宝剣が見られるかもしれないぞ!」ラーンの焦り立つ様子を見て、イシェは不安を感じた。何かがおかしい。この場所、この状況…何かが偽りのように思えた。
テルヘルは冷静に石棺を開けた。その中には、宝剣ではなく、一枚の古びた羊皮紙が入っていた。そこに書かれていたのは、ヴォルダン王朝の暗黒の歴史だった。そして、テルヘルの復讐を助ける鍵となる情報だった。
ラーンとイシェは、その事実を知らないまま、テルヘルの目的のために利用されていることに気づきもしなかった。彼らの純粋さは、偽善者であるテルヘルに巧みに利用されていたのだ。