ラーンの粗雑な剣 swing が埃を巻き上げ、遺跡の奥深くへと響いた。イシェは眉間にしわを寄せながら、崩れそうな石壁の間を慎重に進む。
「本当にここなのか?」
イシェの声は薄く乾いた。ラーンは振り返り、無邪気に笑った。
「ああ、テルヘルが言っただろ? この遺跡には古代の宝器が眠っていると。俺たちは大金持ちになれる!」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観主義にいつも翻弄される。だが、彼を信じたい気持ちもあった。貧しいビレーで暮らす限り、希望が必要だった。
テルヘルは少し離れた場所で、壁画の解読に集中していた。彼女は薄暗い遺跡の中で、まるで影のように佇んでいた。その顔にはいつも冷酷な表情が浮かんでいて、イシェにはどこか不気味に思えた。
「よし、ここだ!」
ラーンの声が響き渡った。崩れかけた石扉の前に立ち、興奮を抑えきれずにいた。イシェは不安を感じながらも、彼と一緒に扉を開けようと手を伸ばした。その時、テルヘルが鋭い声で叫んだ。
「止まれ!」
イシェとラーンが振り返ると、テルヘルの顔には恐怖の色が浮かんでいた。
「この遺跡は罠だ! この扉を開けると、恐ろしい魔物が出現する!」
ラーンの顔色が変わった。彼は迷ったように扉を見つめた。イシェは彼の手を掴んで引き戻した。
「信じよう、ラーン。テルヘルは嘘をつかない」
ラーンの瞳に恐怖が宿り、ゆっくりと扉から手を引いた。その時、壁画の奥で何かが動き始めた。それは影のように蠢き、ゆっくりと扉の方へ近づいてきた。イシェは息を呑んだ。
「あれは…」
彼女の言葉は途絶えた。影は扉に達し、ゆっくりと形を変えていった。それは巨大な獣の姿をしており、鋭い牙を剥き出しにしていた。ラーンは恐怖で言葉を失った。テルヘルは冷静に剣を抜いた。
「嘘だ…偽りだ…」
彼女は呟きながら、獣へと向かって進んだ。イシェはラーンの腕を強く握りしめ、共に逃げ出した。しかし、影の獣は容赦なく追いかけてきた。彼らの背後には、崩れゆく遺跡と、テルヘルの悲鳴が響き渡っていた。