ビレーの酒場「三叉路」の賑やかな喧騒が、ラーンの耳をつんざくように響いていた。イシェの低い声がかすかに聞こえた。「本当に大丈夫か？あのテルヘルは…」
ラーンは深くため息をついた。「おいおい、イシェ。また心配性だな。あの婆さんは金さえ払えば、口約束くらい守るだろう」彼の視線がカウンターに並んだ酒樽に向けられた。
「でも…」
ラーンの腕がテーブルを叩きつけた。「もういい！今日は大穴が見つかる予感がするんだ！ほら、あの遺跡だ！」
彼はイシェの言葉も聞かずに立ち上がり、テルヘルが示した地図を広げた。イシェはため息をつきながら、ラーンに付き従うしかなかった。
テルヘルの指示に従い、彼らは山道を通って遺跡へ向かった。日が暮れ始め、辺りは薄暗くなり始めた頃、彼らは遺跡の入り口に到着した。巨大な石造りの門が、まるで眠りから覚めるようにゆっくりと開いていく。
「準備はいいか？」テルヘルの鋭い声が響いた。ラーンの握り締めた拳が震えていた。イシェは彼の手を軽く握った。その温かい感触に少しだけ安心した。
遺跡の中は、不気味な静けさに包まれていた。石畳の床には苔が生え、壁には謎の模様が刻まれている。彼らは慎重に足を踏み入れ、奥へと進んでいった。
突然、地面が激しく揺れた。ラーンの足元から砂埃が巻き上がり、視界を遮った。
「何だこれは！」イシェの声が不安に震えていた。
その時、天井から巨大な岩が落下してきた。ラーンは咄嗟にイシェを押し倒し、岩の落下地点から身をかわした。しかし、テルヘルは岩の下敷きになってしまった。
「テルヘル！」ラーンの叫び声が響き渡った。
彼は岩を持ち上げようと必死に努力するが、重すぎる。イシェも助けようとするが、力及ばない。「どうする…？」イシェの声が小さく震えた。
その時、テルヘルがかすれた声で言った。「逃げろ…あの遺跡は…」彼女の目は虚ろに空を見つめていた。「停止する…べきだった」
ラーンとイシェは互いの顔を見合わせた。そして、ゆっくりと後ろへ下がっていった。