「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂によると、奥に何か秘められた部屋があるらしいぞ」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。ラーンの言う「噂」は、たいてい酒場で耳にした怪しい話ばかりで、ほとんどがガセだった。だが、イシェもラーンの熱意には負けがちだった。
「また宝探しの話か。一体いつになったら現実を見るんだ?」
イシェの言葉に、ラーンは肩をすくめた。
「いつか必ず大穴を掘る日が来る!それに、お前も分かってるだろ?あの塔、遺跡調査団が調査しようとしたけど、途中でやめたんだって。何か危険があるらしいぞ」
イシェは眉間に皺を寄せた。危険とは一体何を指しているのか?
そこに、テルヘルが口を開いた。
「危険というのは、私達には好都合だ。危険な場所ほど、価値あるものが眠っている可能性が高い」
テルヘルの言葉はいつも冷徹で、計算高い。イシェは彼女のその瞳に何かを感じた。まるで、この遺跡探検がテルヘルにとって単なる冒険ではないかのような、深い何かを秘めているようだった。
「よし、準備だ!イシェ、お前は後方警戒だ」
ラーンの言葉に、イシェは仕方なく頷いた。彼ら3人は塔へと向かった。崩れかけた石畳の上を進み、塔の内部へと足を踏み入れると、薄暗い空気が彼らを包み込んだ。壁には苔むした彫刻が施され、かつて栄華を極めた様子を伺わせる。
「ここだな」
ラーンは奥の部屋にたどり着き、扉を開いた。そこには、石の棺が置かれていた。棺の上には、輝く宝石が埋め込まれた黄金の冠が置かれている。
「うわっ!これは大物だ!」
ラーンの目が輝き、イシェも思わず息を呑んだ。しかし、テルヘルは冷静に状況を把握していた。彼女は棺に刻まれた紋章をじっと見つめていた。
「これは…ヴォルダンの紋章だ」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは顔を見合わせた。ヴォルダン?一体どういうことなのか?
「この遺跡はヴォルダンが何かを隠した場所なのかもしれない…」
テルヘルはゆっくりとつぶやいた。彼女の瞳に宿る光は、単なる好奇心ではなく、復讐心と執念の炎だった。
イシェは、ラーンの無謀さとテルヘルの不気味な目的意識に挟まれ、自分がこの遺跡探検に巻き込まれたことを深く後悔した。そして、この塔には、彼らを待っている何か恐ろしい秘密が眠っていると直感した。