「よし、今回はあの崩れた塔だ!噂によると奥深くには秘宝が眠っているらしいぞ!」ラーンの元気な声がビレーの小さな酒場で響き渡った。イシェはため息をつきながら酒を一口飲んだ。「またしても根拠のない噂話に飛びつくじゃないか…」
「根拠がないなんて言わないでくれ!あの塔は昔、大富豪が住んでいたんだって!きっと財宝が隠されているはずだ!」ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意に負けそうになりながらも、「でも、あの塔は危険だって聞いたよ。崩落する可能性もあるし…」と冷静に反論した。
そこに、黒づくめの旅装をまとったテルヘルがテーブルに近づいてきた。「噂を耳にした。あの塔には古代の呪文が刻まれた石板があるらしい。価値あるものだ。興味はないか?」彼女の言葉は氷のように冷たかった。ラーンの目はさらに輝きを増した。「石板か!それなら大穴になるぞ!」
イシェはテルヘルの目的が何なのか分からなかった。ヴォルダンへの復讐だと聞いていたが、遺跡探索とどう関係があるのか。そして、なぜ彼らに報酬を払ってまで手伝わせるのか?何か裏があるのではないかという不安が頭をよぎった。しかし、ラーンはすでにテルヘルに賛成の意を示していた。イシェはため息をつきながら、二人についていくことにした。
崩れた塔の入り口に立つと、不気味な静けさに包まれていた。日差しが差し込む隙間から埃が舞い上がり、朽ち果てた石造りの壁が崩れ落ちようとしていた。ラーンは剣を抜き、「よし、行くぞ!」と叫び、塔へと足を踏み入れた。イシェは不安を抱えながらも後ろから続いた。テルヘルは二人を見下ろすように静かに歩き始めた。
塔の中は薄暗く、埃が立ち込めていて息苦しかった。足元には崩れ落ちた石や瓦礫が散乱し、一歩一歩が危険だった。ラーンは興奮して石板を探していたが、イシェは足元に気をつけながら慎重に進んでいった。テルヘルは二人をじっと観察しながら、何かを企んでいるかのように静かに歩みを進めていた。
彼らは塔の奥深くへと進んだ。そこには巨大な部屋があり、壁一面に古代文字が刻まれた石板が置かれていた。ラーンの目は輝き、「ついに発見だ!」と叫んだ。しかし、その瞬間、床が崩れ落ち始めた。イシェは咄嗟にラーンを掴んで引き上げたが、テルヘルはすでに石板に向かって手を伸ばしていた。
「これでヴォルダンへの復讐の足掛かりとなる…」彼女は呟いた。イシェは彼女が石板を手に入れることに対して複雑な感情を抱きながら、崩落する塔から逃げることを優先した。ラーンもイシェの助けでなんとか難を逃れたが、石板を手に入れたテルヘルの姿は見えなかった。
ビレーに戻った後、イシェはラーンの無謀さに呆れていた。「あの塔は危険すぎるぞ!石板なんてどうでもいい!」と怒鳴った。ラーンはうつむき、「そうだな…でも、あの石板はきっとすごい価値があるはずだ…」と呟いた。イシェは彼の言葉に絶望的な気持ちになった。
「あの石板が本当に価値あるものだったとしても、私たちには関係ないだろう」イシェは静かに言った。「あの塔で倒産したように、私たちは何も得られなかったのだ」
ラーンはイシェの言葉の意味を理解し、深くうなずいた。二人は互いに見つめ合い、沈黙が続いた。