ビレーの朝焼けは、錆び付いた屋根瓦に赤く染まり、ラーンの目を覚ました。いつものようにイシェが朝食の準備をしている。香ばしい匂いは、今日も遺跡探しの活力になるだろう。
「今日はどこに行くんだ？」
イシェは静かに尋ねた。彼女の瞳はいつも冷静で、ラーンを少し落ち着かせたような気がした。ラーンは大きく伸びをした。
「今日はあの崩れかけた塔だ。テルヘルが古い地図を見つけたって言うんだ。何か面白いものがあるらしいぞ！」
ラーンの声は、いつも通りの高揚感に満ちていた。イシェは小さくため息をつきながら、テーブルに並べたパンとチーズをラーンの前に置いた。
「また大穴の話か…。」
イシェの言葉は、少し寂しそうだった。ラーンの夢は、彼女にはあまりにも遠すぎるもののように思えた。
テルヘルはすでにビレーの外れで待っていた。黒曜石のような瞳が、ラーンとイシェを鋭く見据えていた。
「準備はいいか？」
彼女の言葉は冷たかった。まるで氷の刃のように、ラーンの熱気を冷ますようだった。
遺跡への道は険しかった。岩肌を削るように続く細い道は、かつて栄えた文明の残骸を物語っていた。
崩れかけた塔は、まるで巨大な墓標のようだった。その影は長く伸びて、太陽さえも飲み込んでいくかのようだ。
「ここだ。」
テルヘルは地図を広げ、塔の内部構造を示した。
「この塔には、ヴォルダンが何らかの目的で隠した遺物がある。我々はそれを手に入れるのだ。」
彼女の目は燃えるような光を放っていた。復讐への執念が、彼女を支配しているようだった。
ラーンは剣を抜き、イシェと共に塔の中へと入った。埃っぽい空気が彼らを包み込み、歴史の重みに押し潰されそうになった。
塔の中は、暗くて湿っていた。崩れ落ちた石柱が、かつて栄華を極めた姿を物語っていた。
彼らは慎重に進んでいった。床には、何かの生き物か、あるいはかつてこの塔に住んでいた者たちの足跡が残されていた。
「ここだ。」
テルヘルが、奥の部屋へと続く扉を見つけ出した。扉は錆び付いており、開けるのも一苦労だった。
扉が開くと、そこには、金色の光が輝いていた。それは、ヴォルダンが隠した遺物だった。
ラーンは息をのんだ。イシェも目を丸くして驚いた。
「これは…。」
イシェの言葉は途絶えた。その美しさは、言葉を失わせるほどだった。
テルヘルは、遺物を手に取った。彼女の顔には、少しだけ安堵の色が浮かんでいた。
「これで、ヴォルダンとの戦いに一歩近づくことができる。」
彼女はそう呟いた。
ラーンの心には、複雑な感情が渦巻いていた。夢を叶えるための冒険、そして復讐という憎しみの物語。二つの物語が、この遺跡の中で交錯していた。