「おい、イシェ、どうだ?今日は大穴が見つかる予感がするぜ!」
ラーンの豪快な声は、朝霧がまだ立ち込めるビレーの街並みに響き渡った。イシェはいつものようにため息をついた。ラーンの楽観的な性格と、その根拠のない自信は、いつも彼女を exasperateさせていた。
「ラーン、そんなこと言ってても仕方がないわ。遺跡探索で宝を見つけるなんて、夢物語よ。」
イシェの言葉にラーンは一瞬戸惑ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。
「いや、今回は違うんだ!ほら、テルヘルだって大金を出してくれるって言うんだろ?それくらい何かあるはずだ!」
テルヘルは確かに高額な報酬を提示していた。だが、イシェは彼女の真意に疑念を抱いていた。あの冷酷な瞳と、目的のためなら手段を選ばないという噂は、イシェの心を不安で満たした。
「あの女性、一体何を目指してるんだろう…」
イシェは呟いた。ラーンが遺跡の入り口に向かって走り出す姿を見つめながら、彼女は複雑な感情を抱いていた。
遺跡内部は暗く湿っていた。ラーンの持つランタンの火が、壁に描かれた謎の記号を浮かび上がらせた。イシェは慎重に足元を確認しながら、後ろを振り返った。テルヘルはいつもと変わらず無表情だった。しかし、その瞳には、燃えるような光が宿っているように見えた。
「ここだな。」
テルヘルが突然言い出した。彼女は壁の一部分を指さした。そこには、他の部分とは異なる複雑な模様が刻まれていた。イシェは緊張した呼吸を繰り返しながら、テルヘルの指示に従って、その部分を慎重に掘り始めた。
「何だこれは…?」
ラーンの驚きの声に、イシェも息をのんだ。壁の内側からは、淡い光を放つ球体が出てきた。球体の表面には、複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように光と影が変化していた。
「これは…」
テルヘルは球体を手に取り、目を輝かせた。
「私の信念を裏付けるものだ。」
彼女の言葉に、イシェは背筋が凍るような寒気を感じた。 ラーンが何の気なく言った「大穴」という言葉が、今や恐ろしい意味を持つように思えた。イシェは、この球体とテルヘルの真の目的が、自分たちの想像をはるかに超えたものだと悟った。そして、その結末は、決して安易なものではないだろうと予感した。