「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂では地下深く、ヴォルダンの兵士が埋めたとされる宝庫があるらしいぞ」
ラーンは興奮気味に地図を広げ、イシェに話しかけた。イシェは眉間にしわを寄せながら、地図の線をなぞった。
「また、そんな怪しい噂話か？ 過去の遺跡探索で十分学ばないのか？」
イシェの言葉にはいつも通りの冷静さと皮肉が込められていた。ラーンの計画性のない行動にイシェはいつも呆れていた。だが、ラーンの不屈の精神と仲間への思いやりには、イシェも心動かされるものがあった。
「おい、イシェ！お前は何も面白くないな。いつか大穴を掘り当ててみろよ！」
ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。
そこにテルヘルが近づいてきた。彼女はいつも通り冷徹で、鋭い視線で二人を見下ろしていた。
「準備はいいか？ 今回はヴォルダンとの取引に関わる重要な遺物がある。失敗は許されない」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは小さく頷いた。テルヘルは彼らの雇い主であり、ヴォルダンへの復讐を誓う謎の女性だった。彼女には過去を語らず、目的のためならば手段を選ばない冷酷な一面も持っていた。
崩れた塔の入り口で、ラーンが最初に手をつけた。剣を構え、慎重に足を踏み入れた。イシェはテルヘルと共に後を追った。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。壁には崩れ落ちた石や苔が生えた柱が点在し、かつて栄えた文明の残骸を物語っていた。
「ここは一体…」
イシェが呟くと、突然床から光が放たれた。ラーンは驚いて後ずさりしたが、イシェは冷静に光源を確認した。
それは古代の装置だった。複雑な模様が刻まれた石版は、まるで生きているかのように輝いていた。
「これは…」
テルヘルは目を輝かせ、装置に近づいた。
「ヴォルダンが隠していた技術だ…この装置を手に入れれば、我々の復讐も加速するだろう」
テルヘルは興奮気味に装置に触ろうとしたその時、ラーンの剣が彼女の前に飛び出した。
「待て！ この装置の正体はまだ分からないぞ！」
テルヘルの表情が曇った。「お前は何も理解していない…この装置は我々にとって必要不可欠な物だ。それを阻むとは…」
ラーンの言葉に、テルヘルは冷たい視線を向けた。「お前には私の目的を理解する資格はない。この装置を手に入れるためなら、どんな犠牲も払う覚悟がある」
ラーンとテルヘルの間に緊張が走った。イシェは二人の間で立ち尽くし、冷静さを失っていた。
「待て！ そんなこと言っても…」
イシェの言葉は、二人の激しい対立に飲み込まれてしまった。
崩れた塔の中で、三人の運命は大きく変わろうとしていた…。