ビレーの喧騒を背に、ラーンは重い足を前に出す。イシェがいつも通り彼をじっと見つめているのが感じる。テルヘルが雇った遺跡は、街から東へ半日ほど歩いた場所にあるという。
「おいイシェ、もっと早く歩けよ。」
ラーンの言葉にイシェはため息をつく。「あの遺跡、本当に安全なのかしら？ テルヘルが言うには、過去に何人もの探検隊が行方不明になったって聞いたわ」
「大丈夫だ。俺が守るからな！」ラーンは胸を叩き、自信たっぷりに言った。だが、イシェの不安そうな表情は消えない。テルヘルはいつも冷静沈着で、その目的のためには手段を選ばない。あの冷酷な目つきを見るたび、イシェは背筋が寒くなる。
遺跡の入り口は、崩れかけた石柱と苔むした階段で構成されていた。薄暗い空間からは、湿った土の匂いと、何か獣のような不気味な臭いが漂ってきた。
「よし、俺が先に行くぞ！」ラーンは意気揚々と階段を駆け上がる。イシェは後ろからゆっくりと続く。テルヘルは二人を見下ろすように立ち尽くし、薄暗い瞳に何か光るものがあった。「この遺跡には、きっと大きな秘密が眠っているわ」と彼女は呟いた。
内部は迷路のように複雑で、何時間も探索しても出口は見つからない。壁には古びた絵画が描かれており、奇妙な文字が刻まれている。ラーンは興味津々に壁を触るが、イシェは何か恐ろしいものを感じて背筋が凍り付く。
「何かあったのか？」ラーンの声が響き渡ると、イシェは慌てて振り向いた。「いいえ、何でもないわ」と彼女は答えたが、心の中で祈りを捧げる。
突然、地面が激しく揺れ始めた。天井から石が崩れ落ち、ラーンは咄嗟にイシェを庇い、身をかわした。
「なんだこれは！」ラーンは怒鳴り声を上げた。すると、奥から不気味な声が聞こえてきた。「侵入者…汝らは…死…に…」
イシェは恐怖で言葉を失った。ラーンの顔には、初めて見るほどの真剣な表情が浮かんでいた。テルヘルは静かに剣を抜いて、周囲を見回した。「侮るな…この遺跡は、決して甘くはない」と彼女は冷たく言った。